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スプートニクの帰路 第三十話

 世間一般に広く言われている“魔法”と言うものがどこからどこまでかご存知ですか?


 現時点でわかっているのは、通常は発動されて最初にでた影響までと定義されています。

 例えば、炎熱系魔法。唱えて発生したあらゆるエネルギーの上昇・凝集です。雷鳴系は唱えて発生したエネルギーの値の移動。氷雪系はエネルギーの降下・拡散まで。治癒魔法は体内のエネルギーの調整によるホメオスタシスの後押し。錬金術は魔力によるエネルギーの変換や転換。

 つまり、それは元を辿れば全て同じなのです。それはあのスヴェンニーのお友達が解明したことから導けます。“発動―作用中間理論”と言われています。



「あの論文は取り下げになったんじゃないのか?」


 俺はクロエのくどい説明を遮った。


「グリューネバルトが私に渡した金属の論文が半端であることに気がついたときには、もはやそちらの理論は周知されていて、学術界からの猛反発があり取り下げるのは不可能でした」

「はっ、ざまぁねェな」

「私は聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)ですが、これでも学術界の端くれ。彼らがスヴェンニーとは言え、出した成果を正当に評価され、さらに認められたことに文句は言えませんよ」


 ふん、と鼻を鳴らすとクロエは説明を再び始めた。



 ですが、時空系はその三つの集団からは独立しています。

 基本的な魔法において作用系は全世界であり、乱雑さの増大の速度を周囲に押しつけるもしくは奪うことで魔法は発動しています。

 時空系魔法も同様にその増大を緩やかにすることが出来ます。しかし、大きく異なる点があります。特筆すべきは、世界に作用するか、個人に作用するか、と言う点です。通常であれば系は全世界であり常に一つであるはずのその二つを完全に二つの系に分けてしまうそれは一体なんなのでしょう。占星術師氏族はファストネイションなどと呼ばれて、それももはや失われかけています。


 一見するとまるで関係の無い一般的な魔法と時空系魔法ですが、時空系魔法は最初の三つを対偶の位置に置く方法だというのが最近の研究でわかってきました。


 真実の裏の否定は対偶。これを支配するのが時空系。時空系は全ての支配者です。つまり、その三つの集団の裏を否定すればそれは対偶となるのです。


 金の持つ魔力絶縁性はつまり魔力の否定。否定することができるというのは大いなる事なのです。

 私たちがその魔術三大根源の裏を否定することが出来れば、途絶えた時空系そのものには頼らずすべてを支配できるようになるのです。魔術利用において、殊に魔術単体での利用においてはシンギュラリティを迎えていると言っても過言ではありません。それを越えるために、その全知魔術を完成させる必要があるのです。そのために私たちは黄金を必要としているのです。



「ごめん。聞いてなかったし、よくわかんないし、興味も無い」


 と、腹が立つのでいい加減に遇ってみたものの、クロエの説明には気になることがある。かつて受験のために習った高校レベルの物理で考えると、アニエスの高速移動は系外のものに力を作用させていなかっただろうか。

 最初に殴られたときに俺は手加減をされていたようで、彼女は杖で殴る度に高速移動を解いていた。しかし、その後の前線基地の兵士たちを殴ったり、銃弾の弾道を変えたり、襲撃してきたククーシュカには手加減している様子はなかった。北公の兵士たちは普通に殴る程度ではないほどに吹っ飛んでいたし、殴られていたククーシュカは「私には通じない」と言っていた。


 聞いていないふりをしてはいたが俺は顔をしかめて視線を左右に泳がせていたようで、それを見たクロエはふふっと鼻を鳴らした。


「細かいことは良いんですよ。金が必要なことだけわかってもらえれば」

「虫唾の走るような説明の中でわかったことが一つある。技術は何に使うつもりだ? 戦争に利用するつもりなんだろ」

「技術が開発されれば、もちろん戦争には利用されるでしょうね。人間は得た力を使わずにはいられない。あなたがもし早期に……」


「黙れ」


 俺はクロエの言葉を遮った。


「人のせいにすんな。諜報部員てのはどいつもその程度か?」

「遅かれ早かれ技術は開発されます」

「じゃ俺も細かいことは省いてわかってもらいたいことだけ言う。金はおまえらなんかに渡さない」

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