スプートニクの帰路 第十三話
「ムーバリ上佐、いえ、どちらですか? 今はモンタンですか?」
「ここは北公なのでムーバリ上佐と呼んでいただけると幸いです。閣下も私が共和国のスパイであることはご存じなので、モンタンでも構いませんが」
レアは目をつぶり、「では、ムーバリ上佐」と咳払いをして改まった。
「あなたの傷はもう治りかけです。今体力が無いのは、治癒魔法をかけた際の自己修復に体力を使い切っているだけです。ですが、治癒魔法は良くない菌なども活性化してしまうという報告があります。
聞きましたよ、オオカミに噛まれたそうですね。負傷直後にいきなりかけるのでは無く、洗浄やデブリドマン後にかけた方が効果的という話もあります。これだけかけて症状が出ないなら、まぁ大丈夫でしょう。
ですから、体力が戻り動けるようになり次第、すぐにこの三人から遠ざかってください。あなたは諜報部員でしょう。だから、体力の戻りも早いと思います」
邪魔だから早く出て行けというレアの言葉を最後まで聞くと、肘で少しだけ身体を起こしてムーバリは視線を険しくした。
「それは無理な注文ですね。商人が注文とは、私は問屋ですか。なぜあなたは私をこの三人から引き剥がそうとするのですか?」
「それはあなたが彼の目的にとっては障害でしかないからです。あなたはイズミさんの目的を知っているでしょう? マゼルソン長官から聞いているはずです」
「ええ、知っていますとも。ですが、私は手段であり、進んで邪魔をしようとしているわけではありません。誰かの目的の前の道に転がる石であるなら私はどかされ、石が必要なときには使われるだけです」
またしても二人は喧嘩腰になり、言い合いが始まってしまった。
「何度も言わせるな。ここで喧嘩するなら俺がポータル開いて二人ともノルデンヴィズに放り出すぞ」
ムーバリもギスギスとした空気の中で力んでしまうと、傷の治りも良くないはずだ。俺としてもさっさと出て行って貰いたいので、ポータルを開いて追い出せばいいのだが、さすがに手負いを放り出すわけには行かない。早く治して貰うために俺は二人を止めた。
「家主に怒られてしまいましたが、どうやら話がつきそうではありませんね。これ以上いても繰り返しになります。それに私もここでいつまでも油売ってるわけには行かないので、失礼させていただきます」
そう言うとレアは荷物をまとめた。上着を着ると俺の方へと人差し指を向けた。
「イズミさん、いいですか? 次会うときには何かしらの結論を出しておいてくださいね」
そして、明らかに機嫌を悪くしたまま、レアはポータルを開くと帰っていった。