スプートニクの約束 第十五話
街を出て一路、北へ向かった。
セシリアは強く、疲れてもふらつきながらも泣き言一つ言わずに付いてきた。発熱も最初の一回以外は起きることはなかった。幼いながらに私を気にかけ、ただ我慢していただけかもしれない。
彼女が戦いの最中で突然持ち出した銃は、アスプルンド零年式二十二口径魔力雷管式小銃だった。
私が持ち込んだ共和国製チャリントン三年式二十二口径拳銃をアスプルンド博士が最初にリバースエンジニアリングし魔改良を加えた小銃型の雷管式銃で、北公の兵士に一般的に普及しているタイプだ。
ボルトアクションの単発式であり銃弾は一発しか無いかと思ったが、なぜか彼女がコートのポケットに手を入れると、次から次へと弾が出てくるのだ。危ないから銃を渡しなさいと言ったが、彼女はわたしも戦うと言って放さなかった。
私が始めて人を殺したのは彼女と同じくらいの歳だった。自らの行いを正当化するわけではないが、生きるためだった。無い物は殺して奪え、殺される前に殺せ。そんな日々だった。しかし、だからといってまだ幼い彼女に銃を持たせるわけにはいかない。それに彼女の今の父親はきっとそれを許さない人だ。
彼女は銃を持つだけにとどまらず、その撃ち方を教えて欲しいと懇願してきたのだ。危ない物だ。だからこそ、その使い方を正しく教えるべきだとも思うが、私は頑として教えなかった。知る必要のないことも世の中にはたくさんある。
だが、ボルトを外した状態で彼女に持たせることにした。人々の銃へ認知が少ないとはいえ黒々として光り、そして長い銃身の見た目は厳めしく、多少の脅しにはなるのだ。銃は彼女には大きく、背負うと背中から大きく銃身が飛び出る。それ故にますます大きく見せるのだ。
彼女にとってそれは引き金を引けば弾が飛び出る便利なモノぐらいの認識で、まだそれが人を傷つけ剰え殺めるものであるということまでは理解していないのだろう。先端の穴を人に向けない、覗かないという約束をさせて、持たせると嬉しそうに笑った。
彼女は機嫌が良いと鼻歌を歌った。
そして、それはなんと“白い山の歌”だったのだ。だが、歌について尋ねると、わからないとしか答えなかった。北公にとって大事な情報ではあるが、迫って聞いてしまえばかえって口を閉ざしてしまいそうなので、両親のところに届けるまで深く尋ねるのはやめた。
しかし、一つ失敗したことがあった。良い曲だからもっと聞かせてくれと言うと、恥ずかしがってしまったのだ。詮索の意味ももちろんあったのだが、彼女が歌うからなのか聞き心地はとても良く、そしてなぜか懐かしい気持ちになる曲なので、少しばかり残念なことをしてしまった。
ノルデンヴィズを出て旧ブルンベイクへと向かう途中であの二人の襲撃は無かった。ブルンベイクはあの件で何もかも消失して廃墟と化し、村人も再興は不可能と判断して別の地域に生活基盤を築き始めている。それ故にヒミンビョルグまでは寄る辺がなく、長旅が予想されていたので、その状況は不幸中の幸いだった。
たどり着けるなら、このまま何事もないことを私は願った。だが、願いというのは基本的にマイナスの感情から生まれてくるものだ。ただのひねくれなのか、それともこれまでの罰当たりな人生のせいなのか、苦難は襲いかかるものなのだ。