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スプートニクの約束 第十一話

 ベルカが剣を構え、手を刃に添えている。足を踏み込み、今にも攻撃せんと脹ら脛を膨らませた。


 その足はすぐさま最大限に膨らみ、緩やかなボトムスさえも膨らんだように見えたまさにそのときだ。横にいたストレルカは振りづらそうな大鎌を下に構え刃を上に向けると、鈍く光らせるとぐるぐると路地の幅いっぱいに振り回した。


「ベルカ、アンタはすっこんでな!」


 大声を上げるとノーモーションで五メートルほど高く飛び上がり身体を大きく回転させた。そして、回転と落下の勢いを鎌に乗せ、力強く振り下ろしてきたのだ。

 ベルカに向いていた意識をストレルカに奪われ、咄嗟に彼女を避けようと左に動くと、先ほどまで目の前にいたはずのベルカが剣を横に狭く薙ぎ払ってきた。


素晴らしい(チェドーヴォ)! ストレルカ!」


 足を大きく開き、姿勢を低く前屈みになり間一髪切り抜けた。しかし、頬に切っ先が触れたのか、口に鉄の味が広がった。


「セシリア、大丈夫だな?」


 背中に伝わる感触におぶっている物を切られたような感覚は無かった。尋ねても返事はなかったが、背中を握る掌がぎゅっときつくなった。


「避けないでおくれよ。避けるならせめて飛んでおくれ」


 引き下がったがベルカの方は攻撃を止めず、ストレルカも大鎌を振り回し再び構えた。右手で地面を強く押してすぐさま立ち上がり、槍の切っ先を地面に向け低く構えた。


「空中は無防備。あなた方もご存じのはず」


 背中のセシリアはが布でっしりとくくりつけられている。彼女も剥がれてはいけないと必死に背中にしがみついているようだ。掌でたぐり寄せられた上着は窮屈だが、幸いにもそのせいでの動きにくさはない。

 飛び交う剣の切っ先や大きな動きをする鎌の刃部を回避し続けていたが、次第に攻撃に追いつかれてしまうようになった。

 私は咄嗟に背中を上に向けてしまった。すると剣撃はピタリと止まった。


「おい、兄ちゃん。そりゃずるいんじゃないのかい? 守るとか言ったが、今盾にしたよな?」


 最悪なのはわかっていたが、この二人がセシリアを切れないことを私は利用してしまった。ベルカは黙り込むと、わなわなと震えだした。顔中をひくつかせ、額には青筋を浮かべ始めた。


「ふざけてんじゃねぇぞ! 何考えてやがんだ! 傷が付いたらどうするつもりだぁ、コラ!」


 怒りだしたのか一度収まった剣での攻撃が早くなったのだ。路地の広さのせいでほぼ突きではあるが、端に避けると空いた側から横に薙ぐように剣を振ってくる。それを回避するために飛び上がる事しかできず行動が読まれるようになってしまった。


 そして、ついに回避が遅れてしまい、セシリアをつなぎ止めていた布が破けてしまった。手を伸ばしセシリアを抱き寄せたが、上腕部に剣を受けてしまった。だが、セシリアを捕まえることが出来た。しかし、肩に受けた傷は浅くないようだ。血が滴ってしまっている。セシリアの頭を抱えて地面を強く蹴り、転がるようになりながら距離を取った。

 このままではセシリアを抱きかかえて逃げるしかない。両手は使えない。使えたとしても右手の傷は浅くないので、長くは持たない。


 走って逃げるしかないようだ。ここで逃げだすのは構わない。逃げきれさえすれば約束を果たせる。だが、血を失っては長距離走ることは出来ないだろう。


 いよいよ手詰まりか。


 しかし、彼女を抱えたまま体勢を整えようとしたそのときだ。腹部に何か硬い物がぶつかった。そして、それはさらにぐりぐりと腹部の辺りを押し始めた。


 セシリアが何かしているのか、と腹部をさすると感触に覚えがあった。

 金属の持つ冷たく滑らかな肌触り、それは細い筒状で長く、先端には穴。そして、反対側を擦ると、木製の平らな感触――。


 それはなんと小銃だったのだ。

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