スプートニクの償い 第五話
ククーシュカの捜索は持った以上に時間を要してしまった。だいぶ日が傾き、元々低い気温もさらに下がっていた。
クライナ・シーニャトチカ一帯は平地が広がり、森はあるが低木がほとんどで視界を塞げるほどの鬱蒼とした茂みも無い。どこまでも見通しが良く、隠れられる場所は村の中以外にはほとんどないのだ。ククーシュカの走って行った方角の広い平地をどれほど見渡しても彼女の姿は見えないので、村の中にいるのは確実だった。
村までの道を探しつつ、やがてクライナ・シーニャトチカにたどり着いた。
そのころには体感温度は十度もだいぶ下回っていた。ククーシュカは俺たちから逃げ出すためにコートを脱ぎ捨てていった。薄着ではないだろうが、分厚いコートを着ていない身体には相当堪えるはずだ。ましてや彼女は飢餓状態だ。体力は相当に落ちているに違いない。
村は建物が密集しており、それはそれで隠れる場所が多い。さらに早く見つけなければいけないと逸る気持ちで焦り、なかなか彼女を見つけ出すことが出来なかった。
しかし、ついに日も暮れてしまってから、無人エリアの路地の裏でククーシュカが倒れているのをやっと見つけることができた。
路地に倒れていたククーシュカに近づいたが、もはや逃げる体力も無い様子だった。横に向いていた身体に触れると、まるで氷水でも浴びたかのように冷たくなっていた。だが、息は辛うじてしていた。
持ち上げようと仰向けにすると腕はだらりと地面に付いた。唇は紫色になり、息は荒く、額からは脂汗が浮き上がっていた。おでこに手をかざすと、かなりの高熱が出ていた。かなり衰弱しているようだった。
俺とアニエスは彼女を担ぎ、迷惑を承知でエルメンガルトのところへ連れて行った。
突然現れた俺たちをエルメンガルトは拒否することなく受け容れてくれた。さらに腕の中でこときれてしまいそうなククーシュカの姿を見ると、無言でベッドを用意してくれた。
冷え切った身体を温めるために持っていたコートを着せてベッドに寝かせて、エルメンガルトが用意していた夕食用のスープを少しずつ飲ませると、血色は僅かに戻り呼吸も落ち着きを見せた。
エルメンガルトはベッドの上のククーシュカを覗き込んだ後、俺たち二人をベッドルームの隣の部屋へ手招きしてきた。