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スプートニクの償い 第二話

 ククーシュカは抱えていた銃をそっと前に出した。俺たちは突然の動きに警戒し杖に手をかけたが、彼女は恨めしそうに見つめてくると、「当たらないわよ」と言った。


「うまくならないの。この距離でも外してしまうかもしれないわ」


 砲身を撫でながら、首を傾けて先端を見つめた。メンテナンスがあまりされていないのか、黒鉄の砲身は光らない。銃口が下を向くと黒い粉が煤のように落ちる。

 銃を抱えたまま立ち上がると、驚いたカラスが飛び立った。鳴き声が羽音に混じり不気味に響き渡ると、黒い羽が何枚かチラチラ舞い落ちて溶け始めた泥まみれの雪の上に落ちた。


「わざわざ“この辺にはいない”なんて言い残して姿をくらましたのだから、何か言いたいことがあるんでしょ?」


 銃をコートにしまい、さらに手を深く入れるといつか見た三叉戟を取り出した。


「その通りだ」

「後ろの赤いのは相変わらずなのね」と三叉戟を前に突き出し、切っ先でアニエスの方へと向けた。


「まだ、殺る気か。悲しいよ」

「当たり前でしょう。あなたも逃げてしまうなら、その逃げる先をすべて壊す。私以外の戻る場所をなくしてしまえばいい」

「そんなにしてまで光に当たりたいのか」


 ククーシュカは黙った。だが、俺の言葉に怒りを覚えたのか、肩を上げ毛を逆立て始めた。


「あなたたちにはわからない! あったはずの大事な物が無くなって、それからも奪われ続けて! 最初からすべてあって、何もかけていないどころか、与えられ続けているあなたたちにはわからない! わかるわけがない……」


 彼女は強く怒鳴った。

 広い平原に彼女の声が響き渡ると、まだその場にとどまっていた鳥たちはついばむのを止めて、その頭をもたげて俺たちを見始めた。

 ククーシュカは三叉戟を強く握り、掌の中でじりりと音を立てると、顎を引き睨め付けるようになった。


「与えられないというなら、奪えばいいの。これまでもそうやって生きてきた。だから、光に当たりたいなら、それを奪えばいい」

「ああ、もう聞いたよ。何回もな」


 声色を低くして脅すようになったククーシュカの黄色い瞳を真っ直ぐ見つめ貸して、俺は足を踏み出した。彼女は脅そうと強く言ったようだが、言葉を遮るように切り返されると思っていなかったようで息をのんだ。


「でも、残念だけどそれはもうさせない」


 そして一歩一歩とククーシュカに近づいていった。彼女がまき散らした枝や食べ残した獣の骨を踏むと、足音の代わりに乾いた音がする。


「話をしようじゃないか」


 俺から遠ざかるように、ふらつくククーシュカは後退った。

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