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スプートニクの償い 第一話

「おかえりなさい」


 ククーシュカは三十センチばかりの枝を手で持ち、品定めをするかのように端から端まで見ながらそう言った。そして、木の弾ける音と蒸発する水分の音、それから膨らむように空気を押し退けて煙を上げる焚火にその枝を放り込んだ。

 焚火が崩れて火の粉が散ると、辺りで鳴いていたカラスがそれから逃げるように羽を広げ、一部はその場から飛び去り、他は飛び退いて焚火から上がる火の粉を避けるように距離を取った。


「襲撃者の台詞じゃないな。障害物もない平地でこんなに真っ白な煙をもくもく立てて、丸見えじゃないか。奇襲が出来ないぞ」

「生木は煙たくて嫌ね。それにこの辺に自生している低木にはトベラもあるようね。適当に見繕って燃やしたら、臭くて煙たくて目にも鼻にも染みて我慢できないわ。でも、燃やして正解だったみたい。あなたは必ず戻ってくる。私を一人にはしない。それを私は知っている。あなたは襲撃者であるはずの私の前にこうして現れた。まさに燃やしているこれを目印にして」

「信用されているようで何よりだ」



 ノルデンヴィズ職業会館裏通りのカフェを出て、レアのポータルが閉じてから一時間もしないうちに、俺たちはククーシュカに会えたのだ。

 クライナ・シーニャトチカ近辺の薄く晴れた空に立ち上る一筋の煙は、ポータルを抜けてからすでに見えていた。それを頼りに枯れた草と残った氷のような雪の原野を歩き続けると案の定そこにはククーシュカがいた。


 彼女が焚いていた焚火は思ったよりも大きく、そして乾ききっていない木をそのまま焼いていたようだ。組まれた木の下から横から場所を問わず白煙をもうもうと生み出し、炎よりも大きくそれを巻き上げていた。刺激の強い煙の匂いは喉と鼻に張り付き、涙まで誘うそれからは思わず腕で顔を覆わずにはいられないほどだ。


 辺りには何かの獣の死骸が転がっていた。綺麗に解体され、可食部はすっかり無くなっている。彼女が狩りをして食べたのだろう。残った骨には死喰鳥(ライヘレッセン)やカラスが十羽ほど群がり、骨に薄く張り付いた肉をくちばしでつまんでいる。首を捻るようにして肉を剥ぎ取られると、ついばまれた死骸は汚く散らばった。


 乾いた砂で薄汚れ、頬も以前よりもこけてしまった彼女は、何も無い原野で動物を捕まえて、それを焼いて食べ、飢えを凌いでいたようだ。俺たちは救い出すなどと言って彼女を置き去りにして、共和国でもノルデンヴィズでも調理され温かい食事にありついていた。みすぼらしくやつれた彼女の姿に胸が締め付けられるような気がした。

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