スプートニクの帰路 第五話
小屋を日々直していき、一週間もすると下手な家よりも快適に過ごせるところができあがった。
それと同時に、レアからキューディラでの連絡がひっきりなしに来るようになった。
期限の一週間を過ぎて、さらにもう三日ほど過ぎていたのだ。元々の約束の一週間を超えて十日も待ってくれる辺り、優しいレアらしい。無視をするわけにはいかないので応答して今ヒミンビョルグの山の中と伝えると、キューディラ越しの剣幕が想像できるほどに怒鳴り散らされてしまった。どうやら彼女は近日中にこちらへ来るらしい。
小屋は自殺線の遙か先であり道中での遭難する心配があり、来られるのか尋ねると大丈夫と言われた。どうやって来るのかとさらに尋ねると誤魔化された。しつこく尋ねると何か怖いことを言いそうなのでそれ以上は避けた。
レアに拘束される可能性はないが、めちゃくちゃに怒られてしまいそうだ。げげっ。
窓に吹き付けた雪が枠に積もり、白く丸い縁取りを作っている。そこから見える夜の景色は雪明かりに白い線がいくつも出来ている。今宵は吹雪のようだ。
外の様子とはまるで違う穏やかな部屋に置かれた薪ストーブの前で遠赤外線と煙突の輻射熱を浴びながらゴロゴロしていると、ふとここに落ちていた手紙を思い出した。あれだけは燃やさずに何故か取って置いたのだ。
足を引きずるように膝を立て、ごろりと身体の向きを変えて腕で体を起こし、それからも緩慢な動作で壁に掛けてあったコートへと向かった。あの手紙は内側のポケットに入れっぱなしになっているはずだったのだ。
寝ぼけ眼でごそごそとコートをいじっていると、コーヒーをトレーに入れて運んできたアニエスが現れた。
「出るんですか? こんな時間に」
「いんや、捜し物。前にここ来たときに見つけた手紙だよ」
そう言うとアニエスは眉間に皺を寄せた。そういえば前回はカミュと二人で運ばれたときに、雪山で遭難したときにする暖め合い方をしており発見時は何やらなんとも言えない状態だったらしいので、あまり思い出すと良い気分では無いのだろう。「何を思い出したいんですか?」とやや不機嫌に声を上げた。
「いやいや、あのときのことはできる限り思い出したくないよ。でも、そのときここで見つけた手紙が気になって探してたんだ。ここがク……セシリアの家だとは知らなかった。おそらくだけど、セシリア宛の手紙だったかもしれないんだ」
ポケットに入れていた指先に柔らかくなった紙が当たったので、誤魔化すように、あったと言ってそれを引っ張り出した。
すると出てきた紙切れは思った通りあの手紙だった。これまでの出来事をほとんどともに過ごしてきたので、その手紙も角という角はげんなりと曲がり発見したときよりもさらにボロボロになってしまっていた。
水濡れでくっついてしまった痕はあるが、乾燥して再び開けるようになっていた。何度か水没乾燥を繰り返しているのだろう。脆くなったそれが破けてしまわないようにそっと開いた。