彼女の商量 第二十九話
レアはふむ、と鼻を鳴らし、おとがい辺りを親指と人差し指で擦り始めた。
「なるほど、確かにそうですね。では、いきなり、ということはいずれやると考えてよろしいのですね。ですが、実行に移す前に計画を立てること、つまりあなたの言うプランを立てるのはすぐにでも初めてもらいたいです。それも具体的で確実な物でなければいけません。計画を立てて、実行して、その先でチェックや改善を加えるというのは、あなた自身にとっては大きな負担になると思いますよ」
「なぜ?」
「実行したときに出た結果は人命を数としてしか見ません。例えば、実行の後、チェックの段階において、今回は犠牲者をたくさん出してしまったから、次はできるだけ少なくしよう、という人の数の足し算引き算統計分析を元にして和平へのプランを改良するようなことを二度も三度もしたいですか?」
「う……、確かに……」
「先ほども言いましたが、現時点で連盟政府と北公は合意無き停戦状態です。ノルデンヴィズ南部で北公側の有利な状態で停滞しています。次いつ火花を散らすかはわからないので、あまり悠長に考えている時間はありませんよ?」
「まぁ、そうだな。でも少し待ってくれ。一週間も俺たちをテッセラクトに監禁しようとしたんだから、それくらいは大丈夫だよな? 俺は、俺たちはククーシュカに会わなければいけないんだ」
レアは目をつぶると鼻から息を吐き出した。
「仕方ありませんね。そちらが気になってしまっておろそかにされても困るので」
「できるだけ早くけりを付ける。待ってくれ」
「わかりました。まぁどうせダメと言ったところで、むちゃくちゃなことをしでかして強引に事を進めるでしょうし。そちらはできるだけ、なるべく早くお願いします。気長には待てませんが、大事なことなので。借金も残ってますから逃げられませんよ。うふふ」
それを聞いてアニエスがギョッとして俺をレアと交互に見つめた。
しまった。俺はレアに借金があることをアニエスに直接言ったことは無かった。頼む。そんな顔で見ないでくれ。付き合った相手が実は借金を抱えていたことが発覚、みたいな。
それからは再び料理を食べながら近況報告をした。自然に話はしていたつもりだが、頭の片隅ではあれは言って大丈夫か、これは言って大丈夫かを考え若干の窮屈な感じを覚えながら話をしていたので、ぎこちなさはあったかもしれない。