彼女の商量 第二十八話
「私はトバイアスの末裔です。アニエスさんと私は遠縁の親戚というわけですね。王位……ではなくて、帝位継承順位はほぼ直系のアニエスさんに比べて低いですけどね。私は多く居る兄弟の中で唯一時空系魔法を発現しました。どこかで紅の血が混じったのか、ピンク色の髪なのです」
と言うと結われた髪をいじった後、人差し指に巻き付けた。
「そして、何十年ぶりかの発現だそうです。寿命に関しても何の問題も無く、この年まで生きられています。病気もありません。偉大な力を与えられたにもかかわらず長寿というのは、なんとも運の良い存在なのです。
ですが、生まれたときから商会所属は決まっていたようなものなのです。ベッテルハイム家とルーア家と関わりが薄いのは、時空系魔法血統の発現がフェリタロッサ家の絶対的な発現とは異なって、私のように希だからなのです。血統保持の際の誘拐で対象になることは減っていったのです。知ってる人もほとんどいないでしょうね」
指に巻き付けていた髪の毛をするりと放した。揺れるとピンクの毛束が白く反射した。
「そういえばさ、レアはいくつっ」と言いかけると、隣のアニエスは足を踏みつけてきた。
踏みつけている足を見てゆっくりと視線を上げて彼女の顔を見ると、笑ってはいるが眉間に見逃してしまいそうな皺が寄っており、少し怒っているようにも見えた。
ああ、なるほど、女性に年齢を聞くのは間違いだ。確実に言えることは、少なくとも幼女では無いだろう。だが、足を踏む素早さから察するに、アニエスも絶対に気になっているはずだ。この年齢不詳の見た目幼女の実年齢はいくつなのか。
レアは聞かなかったふりをしてくれた様で、話しながらの笑顔のままだった。
「私の話は以上です。気分転換にはなりましたか?」
湯気を立てなくなった紅茶に口を付けると、「さて、イズミさん、これからどうするのですか? 何度も言いますが、もうあなたには自由と放埒は許されません」と尋ねてきた。それは幾度となく繰り返し尋ねられた問いかけだが、今この場ではこれまでのような刺々しいものはなかった。
「ああ、わかってるよ」
ため息をしながら背筋を伸ばした。
「もう逃げられないさ。いや、逃げないさ。俺はもう一人で生きてるわけじゃ無いんだ。でも、和平に向けて猛進する、って言うのはいきなり無理だ。何が何だかわからない。それに向けて今何をすべきことなのかわからない。その、なんて言うか、具体的なプランがないんだ」