彼女の商量 第二十七話
「ベッテルハイムは双子の苗字です。遙か昔に商会を立ち上げた双子、トバイアスとザカライアの苗字です。
五大工の話は覚えていますね? あの中の定住をしなかった者たちの末裔です。正確には、商会のバイアスがかかった後世の歴史家たちが商会の歴史に重みを出させるために五大工にねじ込んだのです。
商会などと言うのは今でこそ大きな二つばかり目立ちますが、中小規模のものもたくさんありますからね。定住しなかった者たちが全員商人になるわけではありませんし。
当時の世界はまだ宗教の色合いが強く商人は弱い立場で、双子はベッテルハイム・ハンドラーと言う名前の小さな商会を細々とやっていました。当時はまだ川には関所は無く、越えるのは容易でした。川を越えてさらに南下しベタルの町に立ち寄った際、フェルタロス家の中でも特にエルフの血が濃い娘と恋に落ちました。
その若い娘は二人のどちらかを選べず、取り合いも見たくないと言って、か弱い体ながらどちらの子どもも生んだそうです。人間に近かったトバイアスの方の息子は移動魔法が使えました。成長したその子は移動魔法をフル活用することにより商会の規模を破竹の勢いで拡大しました。
しかし、事業拡大の要因にエルフの秘術が関わっているという事実は人間の世界でやっていくには問題がありました。それを隠すために、名前に代表者のベッテルハイムを用いることを止め、代表者を変えて本家の者たちは裏へと回り、さらにトバイアス・ザカライア商会と名を変えました。それが私たち商会の起源です。
さて、もう一人、ザカライアの方の息子も移動魔法が使えました。その子は非常にエルフに近かったのです。ですが、残念なことに夭折してしまいました。
それからわかるように、エルフと時空系魔法が使えることは相性が悪いのか、エルフの血が濃くなおかつ移動魔法をはじめとした時空系魔法が使える者が、エルフ同士で子をなすと長生きはできないそうです。
これはルーア家の話になるのですが、人間の血が濃いフェリタロッサ家の者を何代かおきに攫い、秘密裏に子どもを作らせて兄弟にねじ込むことも何度かしたそうです。それに敬意を表して、ルーア家の名前にフェルタロスと入れたそうですよ。それでも平均で130年ほどの寿命を持つエルフの中であってもルーアの一族の平均寿命は50歳でした。
先代ルーア皇帝、バルナバーシュ帝も32歳の若さで亡くなっています。そして彼は子どもを持たなかった。それにはメレデントの意志があったとかなんとか……。それは共和国の内部の話なので、あちらで聞いてください」