彼女の商量 第二十二話
「先ほどから、優しいはずのイズミさん。たった数人のエルフを焼き殺したことをいつまでも後悔するイズミさん。あなた、反応が冷静すぎませんか? 元勇者たちが大勢殺されているというのに」
レアは眉色一つ変えること無く、そして、瞳の奥を真っ直ぐに見つめてさらにそう言った。
「そんな! レアさんもその話はもう止めてください!」
アニエスはレアを庇うようにしながらも、その話を止めようとした。
「挑発したわけではないのですが……。安心してください。それはごく普通の反応ですから。彼らの行いの数々を見てきた者なら、そう思ってしまうのは然るべきなのです」
俺はレアの首元から手を引くと、浮き上がっていたレアがドサリと椅子に落ちた。
「でも、イズミさん。あなたは甘過ぎます」
そして、乱れた服を掌で正しながら言った。
「あなたが私につかみかかったのは、私への怒りでは無く、あなた自身への怒りでしょう。死んでいった勇者たちがどれだけクズであっても、彼らを思いやるべきだった、という」
レアの言うとおりである。そのすべて、何から何まで。
言われるまで俺はそうだと言うことを無視していた。無視していた自分の中にあるふがいなさと他の勇者たちへの冷たさに俺は腹が立ってしまったのだ。
まるで否定できないことに俺はまたしても無力を感じた。すぐにそれは足にまでも広がり、膝が笑うような感覚を味わった。ふらつく足で後退り、レアの向かいの椅子にへたり込んだ。両掌は脂汗でびっしょりだ。目を強くつぶり、汗だらけの掌で顔と額を擦った。
べたつく掌がからは極度の緊張感を味わったときの嫌な臭いがして、口に紛れ込んだ汗が塩味を与えた。
確かに勇者たちは傍迷惑な存在だった。何もしないくせに自分たちの権利と立場だけは主張して、気に入らなければ怒りを撒き散らし暴れる。シリルもドミニクもあのヤシマさえもそうだった。だが、まともになろうとしていた連中もいることを知った。これから良い行いをすれば、今までの悪行はすべて許される。そんなはずはない。だが、全うになろうとした人間を止める理由はどこにもないはずだ。
ヤシマは今ではおとなしく何とかやっている。俺とアニエスを襲ったシリルもドミニクも話を聞いただけだが、再出発を誓っていた。その矢先にどうしてこうも簡単に殺されてしまわなければいけないのだ。
何が正解だったんだろうか。俺がもう少し早く動いていれば、シリルもドミニクも、そのほかのまともになろうとしていた元勇者たちを救い出せたのだろうか?
テーブルに両肘をのせて、頭を抱えた。眼前に広がるテーブルの木目に脂汗が垂れている。
「俺はどうしたらいい?」
「それは私にもわかりません。おそらく」
レアはカップを持ち上げると目をつぶり、「私の売るどんな商品にも、答えは載っていないでしょうね」と紅茶に口を付けた。カップがソーサーに置かれると、こすれた音がした。
「そうか……。掴みかかって悪かったな」
「構いませんよ。これも仕事ですから」