彼女の商量 第十九話
そして、アルバトロス・オセアノユニオンとして独立したイスペイネ領(正式に国家として認めたのは共和国と友学連、そして後の北公。連盟政府内では反乱扱い)の反乱鎮圧と、マルタンにできた帝政ルーア亡命政府(認めたのは連盟政府のみ)の支援により、ユニオン・連盟政府国境で紛争が起きて、連盟政府内各自治領の主力軍が出動した結果、連盟政府内の治安は悪化しました。
全土で取り締まりが手薄になった連盟政府内で新世代勇者は、スカウトの対象では無かった旧世代勇者たちと同様に盗賊に成り下がったり、殺し屋になったりとほとんどまっとうではありませんでした。
どちらの世代を問わず対応が遅れたのも、商会は、新世代をスカウトし終えた後に旧世代に対しての処遇を考える予定であり、さらに旧世代はカルデロンにほとんど押しつけてしまえばいいだろうと考えていたからです。
早雪、各地の独立、亡命政府支援、慢性化した共和国との和平交渉停滞などに追われていた政府も、ルード通貨弱体化と北部支部の不正への対応に追われていた協会も、どちらも手一杯と言うことで元勇者の処遇に関しては商会に一任していたので、何も手立てを考えていませんでした。
スカウトの件は対象者がいなくなり、それだけにとどまらず世間に大きな混乱を招きかねない元勇者たちはただ邪魔でしかなくなってしまったのです。そこで商会はシグルズ指令を大幅に変更しました。スカウトから元勇者(新世代と旧世代の区別無く)の排除へ変わったのです。これが中期シグルズ指令です。
ですが、全土に散った者やユニオンにいる者、その他も含めて全48名の元勇者たちの完全排除には、相次ぐ自治領の独立により行動が制限されてしまい手を焼いていました。
そのさなかに、タイミング良くカルルの離反が起きてくれました。各地の職業会館で得られた名簿を利用し勇者経験者優遇という名目で、北公、連盟政府の両方で傭兵を破格の好待遇で募集し最前線に向かわせました。戦地で兵士や民兵に依頼し、後方から攻撃させたり誤射に偽装させたりすることでその数をだいぶ減らすことができました。ほとんどがミッシング・イン・アクションということになっています。
48名の元勇者の全員が全員、傭兵に志願してきたわけではありません。ですが、血の気が多く武闘派であり好戦的な厄介な者たちの多くが傭兵になり行方不明になったので、処理をする数自体を減らすことができました。その残りのところへヴァーリの使徒が片付けに向かった、と言うわけです。