彼女の商量 第十八話
その日を境に、移動魔法をはじめとした特殊な能力を使える者たちはぱったりといなくなったのです。スカウトを受け商会業務に従事している元勇者たちのほとんどが特殊な能力を使って仕事をしていました。特に、移動魔法の消失は大きな痛手となりました。
それと同時に、商会が設定していた勇者という立場が無くなる期限を迎えたので、立場を剥奪しました。ここで能力が無くなっていなければ、みなただの敏腕商人になっていたはずでした。
「……ですが、実を言うと、ここの記憶は私たち商会も曖昧なのです。まるで能力が無くなるのをあらかじめ知っていたかのように立場が無くなる期限を定めていたことが不可解でした。不思議なこともあるのですね」
話のトーンを下げてレアは小首をかしげている。
その記憶が曖昧ではない者は、この世界では俺だけなのだ。期限と同時に女神は自分の存在を消し、勇者や賢者と言った立場をこれまで商会が与えていたことに事実改変したことの弊害だ。俺は残された仕事を終わらせるために女神に記憶をいじられずに済んだのだ。(逆を言えば、俺が狂気じみているとも言える)
レアは勘が鋭く賢いので、その突如押し込まれた偽の記憶に対して強烈な違和感を抱いているのだろう。だが、俺はややこしくなることを回避するためにその場では特に何も口を挟まず、レアの話の続きに耳を傾けた。
それからカルデロンも元勇者たちが使えないとわかるとすぐさま沈黙しました。元勇者スカウト合戦からの撤退ではなく、完全なる沈黙をし始めたのです。
彼らは沈黙することでスカウト合戦により発生した弊害のすべてにも口を閉ざしました。そして、その時点で有利だったことが私たち商会にさらなる損害を生みました。スカウトしてしまった大勢の元勇者をいきなりクビにしてしまうわけにもいきません。
ですが、無能元勇者を持て余すのはどれほど商会に富があったとしても、屈辱でしかありません。ただの商人として働かせようという提案もありましたが、能力頼みだった彼らは結局使い物にならなかったのです。そうしていくうちに脱走者が増えていき、やがてほとんどがいなくなってしまいました。
そして、さらに最悪なことも起こったのです。カルデロンが保護していた元勇者たちが何名かいたのですが、家が豪邸じゃない、食事が気に入らない、仕事が気に入らないなどと待遇の悪さを訴え、大半が逃げ出してきた末に連盟政府でごろつきになったのです。
カルデロンは能力消失後沈黙を貫いていたので、当然それに何か手を打つことはありませんでした。いえ、打たなかったのではなく、出て行かせたのでしょう。穀潰しを無理に追い出して後の軋轢を生まず、自分たちから勝手に出て行くことを狙ったのは間違いないです。