彼女の商量 第十六話
「組織として現存することが可能だった理由はおそらく、私たちヴァーリの使徒は商会の保安部門であるため旧イスペイネには入れないので私たちに潰されることは無く細々と生き残り、その後イスペイネがユニオンとしての独立したことよりそれまで以上に連盟、商会や金融協会とのつながりが希薄になり孤立したので残れたのでしょう。
サント・プラントンの本部とも完全に関わりを絶たれ、裏切りを働いたシバサキとも縁を切り、商会や本部から物理的にも精神的にも離れているという場所柄、あちこちから受けたが焦げ付いてしまった融資をどうするかの擦り付け合戦の悪影響をあまり受けなかったのでしょう。
その後、維持のためにユニオン政府をはじめとした諸機関に融資依頼をして、様々な条件をのむことで受けることができたのでしょう。
現時点でマリナ・ジャーナルは、ユニオンには入れない私たち商会ですら入手が簡単で、残党とは言えないほどに規模が大きいです。大方、対外的対内的な事柄への有用性に気が付いたユニオン政府かカルデロンが融資を拡充したのでしょうね。
商会はユニオンには立ち入れないのでもはや関係ない、とは割り切れないので、思うところは多少なりとありますが、“マリナ・ジャーナル”紙とユニオン政府とは良い関係を築いているようです。そして、かつての本部のような体制とは異なり、自らを優先させて混乱を招こうとはせず、極めてユニオン首脳部寄りではありますが立派な一つのメディアとしてやっているようです」
「俺たちのキューディラジオはどうなの? 拒否まではしてないけど勝手にやってる感じだし」
レアは腕を組んで、顔から渋さではなく今度は険しさを漂わせ始めた。ふぅーっんと喉の奥をならしている。
「それについて私自身言いたいことが山ほどあります。勝手に始まった事に対して当初は問題を指摘されました。ダリダさんの事前の説明で収益を得られるような物ではないと確認が取れ、流れているのは音楽ばかりであり思想への介入は少ないようなので静観していました。
しかし、先日のユニオン独立式典の放送は明らかに政治的内容であり、止めるべきではないかと議論されました。
ですが、強制切断の決定が下される直前に中断され、以後は再び音楽だけになったので特に手は打ちませんでした。キューディラのシステム自体は商会の物です。かつてダリダさんが売ったのはご存じですね。
システムの解析はできていませんが、キューディラジオが掲示板機能をベースにしている限り、いつでも止められるんですよ。事実上私たちの手の中にあると思ってください。こちらの件に関しても思うところはありますが、ここでは関係ないでしょう」
レアはどうやらあまりこの話を続けたくないようだ。切り上げてしまうと鼻から大きく気を吸い込んで姿勢を正した。
「さて、前説はここまでです。そろそろ話をシグルズ指令に戻しましょう」