彼女の商量 第十五話
しかし、先ほども言いましたが、本来なら完全なる自由には大いなる責任がつきまとうはずなのです。それにもかかわらず、ノルデンヴィズの職業会館裏通りで彼らはあらゆる責任を負わず、それでいて豊かな暮らしているのです。その責任の所在がなぜ偏るのかというと、完全なる自由を謳歌する彼らが追うべき責任を『自由』の中で生きている者たちに丸投げして放棄しているからなのです。
法の外にいるクイーベルシーたちに仕事を与えてしまったことで、法的に問われることになるのはクイーベルシーたちだけではなく、水汲み依頼者も問われることになります。もし公になってしまうと依頼者も前科者になってしまうので、法の中での『自由』を生きる人はそれを訴えることすらできません。
もうお気づきかと思いますが、噴水からの採取についての景観保護というのは建前です。責任を無視した完全なる自由を謳歌するクイーベルシーたちを取り締まるための間接的に適用される法ですね。それについて私たち商会・協会が絡んでくるとどうなるかなど、わかりきったことではありませんか。
商人や協会が法治に絡むのは、何も知らない一般市民からすれば、市場独占だの金融的支配だのと印象が最悪です。もし商会や協会の手の届くところで取り締まれば、私たちが攻撃されてしまい、『自由』に生きる人たちを守れなくなってしまいます。
私がヴァーリの使徒の制服で袋だたきに遭わず職業会館裏通りを闊歩できるのは、唯一の統治者である自治領により法が定められているからなのです。
「話が脱線してしまいましたね。要するに、勇者たちも同じようなことをしようとしたのです。イエロージャーナリズム振りかざして自分たちは責任を負わず良いところだけをむしり取ろうとしていたのです。どこまでお話しましたっけ? 勇者の新聞社が無くなったところでしたっけ?」
「レア、いいかい?」
俺は話を遮った。すると、レアはなんでしょう、と小首をかしげた。
「新聞の話で聞きたいんだけど、もうシバサキが事業を放棄して以降はなくなったんだよな?」
「ええ、そうですが?」
「ユニオンには新聞があるのを見たんだけど? 名前は……確か、『マリナ・ジャーナル』だったかな。あれは何? 関係あるの?」
「それも元はシバサキの立ち上げた新聞社の支局の一つですね。旧イスペイネ領は広大で人口が多く、さらに識字率は平均以上です。読者がストスリアに次いで多いと見込んだのでしょう。独自にラド・デル・マル支局を作っていたようです。
いわずもがな、旧イスペイネ領のカミロ・シスネロスは古典復興運動にも関連してきますからね。イスペイネを拠点にしていた数名の勇者をシバサキが勧誘して、事業に参加させたのでしょう」
このペースだと完結までに千話を越えます。
次章 『スプートニクの帰路』編→超長編
次々章 『紅き袂別るる金床の星々(仮)』編→長編
最終章 『ぼくらの異世界戦争史(仮)』編→長編
と予定していますが、だいぶ長くなりそうです。