彼女の商量 第十一話
「仮に乗っ取られたとしても、クズしかいないならすぐ倒れると思うけど」
「残念ですが、国はどれほど潰れそうでもなかなか潰れない物なのです。ましてや連盟政府は200余年続いた国家です。潰れるとなると相当な時間を要します。ユニオン、友学連や北公のように傑出した者たちが自立の道を歩もうと立ち上がれば話は変わるかもしれませんが、生憎、そのような領主はもういません。
ピークを過ぎた連盟政府だった物は長い時間をかけて腐敗し、じわりじわりとすべてをゆっくり溶かしていくように無くなっていくのです。自己中心的な方々に剴切な治世はおろか、適切な国の終わらせ方すら期待できないでしょう」
「クズ勇者の国盗りはわかったよ。でもさ、商会も利益のために偏ったことを伝えようとするだろ? それに現行の政府も支持のためにそうするだろ?」
「政府、市民、商会、協会、その全体の利益を考えた上でそういうことをする可能性は大いにあります。ですが、彼らに関して言えば完全に彼ら個人の利益だけを追求していました。
大きな組織の影響を受けずに事業をしようとするのは見上げた理念ですが、その事業に参加した元勇者たちだけが明らかに得をするようなシステムだったのです。ときには根も葉もない話を持ち出すことも厭わない様子でした」
ふぅーん、と思わず素っ気ない返事をしてしまった。
レアは何やら難しい話をしているが、要するに元勇者はみんなクズと言うことだろう。それはいつか面談をしたときからわかっていただろうと考えると、俺は彼女の話をほとんど理解していないことに気がついてしまった。
アニエスはレアの目を真っ直ぐ見て真剣に聞いていそうだから、後でまとめて聞こう。
「シバサキが出てきた時点でどうせそんなんだろうとは思ったけど。でも、メディアはどこからも独立性を保って公平で自由な方が良いとは思うけど」
「自由……ですか。それも本当に頭の痛い言葉です……」
レアは渋い顔をして右手で額を擦っている。再び話を始めた。
「商会、協会、政府はもちろん『自由』を認めています。連盟政府は領地自治制であり、連盟法に加えて独自の法を持ち各々が一つの法治国家なので、あくまで三機関の定める範囲での、ですが」
掌を顔から離すと姿勢を正し、
「では、イズミさん、あなたが日々享受している自由とは一体なんですか?」
と尋ねてきた。何やら小難しいことを今度は尋ねてきたので、首を後ろに下げて視線を泳がせてしまった。
「普通に暮らせるってことじゃないのか? 朝起きて、仕事して、ご飯食べて、遊んで、寝て、そういう普通の一連の流れが当たり前にできることじゃないのか?」
ぼんやりとした答えを返すと「まあ、それでいいでしょう」とレアは頷いた。続けて「では、一般市民である観点で、盗んだり、殺したりなどの犯罪はそこに含まれますか?」と被せるように尋ねてきた。