彼女の商量 第七話
「私たちヴァーリの使徒には、シグルズ指令という物が出されていました。商会が去年の年明け頃に、勇者たちの立場が無くなると彼らに通知して以降、紆余曲折を経て発令された指令です。
当初、指令の目標は、多少厄介な存在ではあるものの高度な利便性を持つ移動魔法を使用可能な新世代の元勇者が、その能力を持て余さないようにするため、そして、仕事にあぶれて迷惑行為にこれ以上及ばないようにするために商会でスカウトする予定でした」
レアは掌を合わせ、テーブルの上に置いた。
実際は言葉通りのスカウトなどではなく、強制的な雇用制度だったに間違いない。それに使える者たち以外の、つまり旧世代の勇者はどうするつもりかなど聞くのもおぞましい。
「それが何で皆殺しになったんだ?」
「わかりませんか? 固有の特殊能力が消失した後、全員が本当にただの厄介者に成り下がったので。さらに成り下がってもなお下がり続けて厄介なことをし続けた結果、指令は中期後期と段階を経て過激に変貌していきました。大雑把に言うとそういうことです」
「成り下がってさらに下がるって、何があったんだ?」
「元勇者たちがシンブンシャとか言うのを立ち上げようとしていたのはご存じですか?」
「ああ、まぁ。結構前に、確か共和国から戻ってきたときくらいにノルデンヴィズで噂を聞いたけど。待てど暮らせど出てこないから、立ち消えたのかと思ってた」
「そうですか。イズミさんは新聞のことはご存じのようですし、アニエスさんは共和国で見ていたからわかりますね? その辺は割愛します」
「大きめの紙に文字がたくさん書いてある束ですね。最新のことが書いてあるとか、なんとか」
レアは大きくうなずいた。そして、間を開けると,
「それを立ち上げたのはシバサキです」
と感慨深そうに言った。
だが、ああ、ハイハイ、思わず吐息を漏らして背中を後ろの背もたれに預けてしまった。なるほど、成り下がってなお厄介ごとを起こしてその結果を導くのは仕方ないな、と思わず話を聞いてもいないのに納得してしまった。
「意外ですね。ショックは受けないんですか? 死人も出ているのに」
「いや、さすがに、これまでの積み重ねで慣れたよ」
そう言うとレアはほんの一瞬黙り、顎を引いて顔を覗き込んできた。何かを確かめているかのような視線は左右に一度往復しながら、俺の表情を見ていた。