彼女の商量 第六話
「とはいうものの、この場で言いたいのはそういうことではないです。もちろん、あなた方を安心させたいわけではないですし、あなたたちを生かすために私がリスクを払っていることも忘れないでください。それにしても、ノルデンヴィズの南部前線基地でのことは感謝してもらいたいですね」
レアは腕を組んで顎を上げた。
「君は取り囲んできたヴァーリの使徒に混じってたじゃないか。去り際も顔をわざわざ見せつけてまで。あのときは俺たちをブッ殺すつもりで動いてたんじゃないのか?」
「冗談じゃない」
ほとんど遮るかのように即答すると、組んでいた腕をほどいた。ゆっくりと両手をテーブルにつき、食い気味になった。
「そんな程度で殺しては私が大損ですよ。部下にやらせるべき事に対して私のような立場の者がしゃしゃり出て、あなた方二人を囲んでいた集団に混じり、移動魔法のポータルをバレないように一つ解除したのは私ですよ? そのおかげであの絶対包囲網から逃げられたのですから。その後もわざと目立つように公式のキューディラ回線でユニオンに連絡を入れて、あなた方がそこに逃げ込んだことにしたのは誰だと思っているのですか?」
「そうだったのか……」
てっきり勘違いをさせられることができてうまく撒くことができたのかと思っていたがそういうわけではなかったようだ。なんだ、やっぱり優しいレアじゃないか。
思い起こせば確かにノルデンヴィズでアニエスと爛れた日々を過ごしていたときも逃避行をしていたときも、ククーシュカ以外の襲撃は不自然なまでに一度も無かった。その時点でカルルは俺をすでに許していたし、北公の領域からも出ていたし、さらに商会は俺たちがユニオンにいると思っていたので無かったのだろう。
「それには感謝せざるを得ないな。でも、ヤシマとか元勇者たちを殺して回っていたのはやっぱりおまえら商会か?」
「ええ、そうです。元勇者の、いえ、正しくは移動魔法を使える人間の掃討を行っています」
「それならなぜ移動魔法が使えない旧世代の勇者まで殺し始めたんだ?」
レアははぁーとため息をこぼすと、「……もはや、あれもこれも、商会の機密はほとんど丸裸。ガバガバNDAもいいところ」と肩をすくめた。
「まぁ、あなた方は大丈夫でしょう。お話ししましょう。少し、いえ、だいぶ長い話になりますが、お付き合いください」