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過去と未来を紡ぐ場所 最終話

「過程があっての未来は正しいものだけど、過程を無視した未来は未来じゃないの。タダの幻よ。良い未来が決まっているから何もしなくてもいいって言うのは間違い。悪い未来が決まっているから絶望するのも間違い。

 例えばさ、テストで八十点取れる未来が決まってるから勉強しなくていいってのは間違いよ。合格できないならもういいやもダメ。別に本人の努力が大事云々とか、行動原理がマイナスかプラスかとかそういう精神論じゃ無くて、未来を見た時点で誰しも絶対に勉強の手を抜くから結果が変わるわけ。人間が一番情熱を向けられるのは、如何にして怠惰をむさぼるかなのよ。

 まぁ要するに、無意識下でいい加減になるってこと。勉強しなかったら普通に八十点なんて取れないわよ。共通一次試験……今は大学入学共通テストか。それを鉛筆転がすだけで満点取れる確率って、五十溝分の一(5×10の33乗分の1)らしいわね。未来が決まっていて、その結果に必ず収束させられるように行動できるまで、人間の未来視はお預けなの。ま、宇宙を何巡させても無理だけど」


 そして、電子タバコを再びくわえて目を閉じた。

 俺は間を開けて下を向いたまま、ぼそぼそとした声を絞り出して「ごめんなさい」と謝った。すると、女神はすぐ横まで来て「そんなに不安?」と肩に右手を置いた。


「ええ、まぁ」

「大丈夫よ。あんたにはできる。あたしが保証してるわ。あたしがついてるんだから」


 と置いていた掌で肩をもむような仕草をした。そして、左拳を自らの胸の前に振り上げ、


「何かを始めた人間に、君は意思を持って何かを始めたから、やらない人間とは違うんだ」


 とさらに声色を変えて言うと、感慨深そうに目を深くつぶって間を開けた。


 だが突然目を刮目すると、


「なーんて言葉を送られるステージじゃもう無いわよ! あんたは始めた人間たちの中で比べ合う段階にいるの。その上でこれから言うことをよく聞いて、そして考えなさい」


と言うとオホンと咳き込んだ。


「出来るか出来ないかじゃなくてやるしかない、なんて言葉は出来ないヤツに言っても意味がないの。出来ないヤツは5×10の33乗回転生しても絶対に出来ない。もちろん、5×10の33乗と一回目でもね。逆に出来るヤツは案外早く必ずたどり着けるのよ。もはや期待もプレッシャーも押しつけてないわ。あたしは出来ることを知ってるからアンタにこう言うの。“出来る出来ないじゃなくて、やるしかない”ってね」


 そして、そのまま俺の様子を覗うことも無く、「さ、あんたたちも忙しいでしょうし、さっさと帰んなさい」と今度は肩を揺らし始めた。


 どうやらノルデンヴィズに戻ることは出来そうだ。顔に疲れが浮き始めていたアニエスも安心した様子で眉を下げている。しかし、この空間はいつもの呼び出し場所でありなじみもあるが、いざ帰るときは意識をしたことがない。「どうやって帰れば良いんですか?」と肩を揺らしている掌を見つめて尋ねると「いつも通りよ」と女神は指を鳴らした。


「あと、あたし背中にニキビはできてないから!」




 気がつくと、またしても先ほどと同じ暗闇の中に浮かんでいた。


 ずいぶんとあっさり帰されたものだ。サボっていてことについて何かを延々と言われるかと思ったが、頑張りなさいと尻を叩かれただけに肩透かしを食らったような気分だ。おそらく、彼女も忙しく、いちいち構っていられるほどの時間は無いのだろう。


 放り出されたところは先ほどの無重力空間と同じようだ。しかし、真っ暗闇というわけではなく、目の前の一本の直線から光が漏れていた。そこへ向かって手を伸ばすと、それは大きくなり、外の光が差し込んでいるのが見える。


 両手が入るほどに開いていたのでその隙間へ手を突っ込み、左右に広げるようにすると、そこからレアの下顎が見えた。

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