過去と未来を紡ぐ場所 第十六話
「なんだ、そういうことかー」
俺とアニエスは、何かしらの時空系魔法によりレアのテッセラクトに放り込まれて途方に暮れているときに、タバコとタブレットが飛んできたのでそれを頼りにしてここにたどり着いたことを女神に簡単に説明した。すると、こめかみに人差し指を当て三秒ほど黙った後、あっさり納得してくれた。
「四次元空間だから繋がったのよ。あたしもその空間ポケットみたいにして使ってるし。それであたしの持ち物を目印にして上がってきたってワケね。四次元だから記憶そのものが関連付いてあたしの物と結びついたのね」
女神は丸椅子をつま先でガリガリとたぐり寄せ、座って足を組むと、右手の人差し指をくいくいと何かを催促するように動かしている。その仕草が何を求めているのかわからなかったが、ふと右手で握りしめていた電子タバコを思い出して女神に手渡した。
正しい物を渡せたようで彼女は、んん~、と鼻を鳴らして口角を上げた。胸元に手を突っ込んで、電子タバコのスティックを取り出して本体に刺すと、早速吸い始めた。そして、「いやいや」と煙のない大きな一服を吐き出すと、電子タバコの独特の金属が焦げたような匂いを微かに漂わせた。スティックを口から放し、満足そうに目と口元をすぼめている。
「いきなりおっぱい鷲づかみにされたから、最近流行のテッセラクト痴漢かと思ったわ。四次元的な繋がりを使っておっぱいとかお尻とか触っていくヤツ。やるヤツぶち殺したいわね、ホント」
そういいながら両前腕で大きな胸を寄せて思い切り谷間をIの字にして強調すると、やんやんと左右に上体をゆらした。それを見ていたアニエスの方からぴりついた気配が立ちこめるのがわかる。顔は見なかったが、下眼瞼の痙攣を起こしていそうだ。
女神はふざけた腕を下ろし、人差し指と中指でつまんだスティックを親指で弾いている。その仕草は紙タバコの灰を落とすもので、電子タバコでは意味の無いが長年の癖のようだ。
「ねぇ知ってる? 偽巨乳って谷間がYの字になるのよ。背中、脇、腹、二の腕、上半身一帯のありとあらゆる部位から贅肉という贅肉をかき集めて寄せあげるから、上がった分の影ができるんだって。さしずめ、あたしとその子はIの字だから天然物よぉん」
それを聞いてアニエスは驚いたように肩を上げた。そして掌を胸の方に向けて、自らの谷間と女神を素早い動き交互に見つめた。
女神はアニエスを見て笑っていたが、突然立ち上がり「寄せて~、上げる~。よぉせてぇぇ、あげるぅぅぅ」と聞いたことのあるような無いような歌を口ずさんだ。そして、目の前までやってくるとぐっと身を乗り出して前屈みになり俺を覗き込んできた。
「イズミ君さ」
そして、ゆっくりと笑顔を大きくしていくと、
「最近、サボってたでしょ」
と小首をかしげてきた。