過去と未来を紡ぐ場所 第十二話
俺はふと、昔観た何とかステラーという映画を思い出した。
未来の話で、トウモロコシなどのC4植物も育たなくなり始めた滅亡に向かっている地球から脱出するため、土星の辺りに現れたワームホールの先で居住可能な惑星を探すという話だった。
解釈が間違っているかもしれないが、なんやかんやで住めるかもしれない惑星が見つかったが、そちらに向かう途中でブラックホールの重力圏を抜け出すために主人公が犠牲になって飲み込まれてしまった。
しかし、ブラックホールの中心は高次元世界だったので、一緒に飲み込まれた黒くて大きな拍子木のような機械にブラックホールの内側を解析させて、過去にいる娘と自分にモールス信号を送ってうまくいった、と言う話だった。
それを考えれば、たぶんここは似たような高次元の世界であり、ここにある何かに触れれば、その物の持つ未来の記憶を見ることができるかもしれない。
和平は実現できるのか。アニエスはどうなるのか。カトウ、ユリナ、シローク、マリーク、ヤシマ……それ以外にも様々な人たちはどうなるのか。そして、俺自身どうなっていくのか。様々な人の未来を垣間見ることができるのかもしれないのだ。それは希望かもしれない。
未来を見ようと、俺は手を伸ばそうとした。
しかし、アニエスがすがりつくように服を強く掴んできた。未来を見ようとしたのを止めようとしたわけではないようだ。ただ、側から離れないで欲しいと懇願するようなぬくもりが服を伝わってきた。もし、見ようとすれば寄りかかる今のアニエスから手を放さなければいけない。
未来がわかれば、そのようなことはどうでもいいのではないか。しかし、もし悲惨な未来だとしたら? そして、それが回避できないものだとしたら? 見たからと言って、本当にそのすべては希望なのか?
振り払い手を放し、見てしまえば彼女にさらに辛いものを見せるかもしれない。それは彼女に限ったことではなく、俺自身にも当てはまるのだ。
気にはなる。だが、離してしまえばすべてが遠くへ行ってしまうような気がした。
伸ばしていた腕を下ろし、深く目をつぶった。そして、覆い被さるようにしてアニエスに体を寄せてうずくまった。彼女は安心したかのように潜り込むようになり、身を預けてきた。