過去と未来を紡ぐ場所 第四話
現れた女の子を中心にして、光はさらに拡張しながら次々と何かを映し出し始めた。
まず腰の高さくらいの煙突とガラス窓のついた金属の箱が現れた。ガラス窓からは赤く穏やかに燻る炭がいくつか見えていて薪ストーブのようだ。使い込んでいるのか窓の枠に黒く煤がついている。その反対側が映し出されるとそこには、たくさんのレンガで作られた小部屋があり、出入り口のような穴はレンガがアーチ型に組まれていた。
壁、窓、ドア枠、次々と映し出され、四方の壁がすべて現れると、光の拡張は止まった。どこかの家の部屋のようだったが、見覚えある光景はすぐに場所がわかった。
「これは、ブルンベイクのパン屋じゃないか?」
「そ、そうみたいです。でも、ストーブも釜もまだ綺麗です。最近はレンガが割れたり、焦げ付いたりでもっと劣化して立て替えるって話も出ていたはず……」
確かに浮かび上がった物のすべてが、新しくはないがまだ綺麗なのだ。すべてに見覚えはあるのだが、記憶の中にあるそれはもっと使い込んで古くなっていたはずなのだ。
突然目の前に広がった光景に驚いていると、止まっていた立体映像は動き出した。先ほど現れた赤い髪の小さな女の子は、左右を見るとテーブルの下へと慌てるように隠れてしまった。
「あの子、といってもたぶん私なんですけど、私たちのことは見えていないのでしょうか?」
「たぶん、これは立体映像……幻みたいなもんだと思う」
女の子はしばらくそこでうずくまっていると、今度はその部屋に大柄の男性が入ってきた。男はシャツを着ていてやつれた顎には整えられた髭が生えている。困ったように鼻から息を吐き出し、後頭部を掻くと部屋の中をぐるぐると歩いて見回し始めた。
男を見たアニエスはすぐにその男の目の前に飛び出していった。そして、顔の前で手をぶんぶん振りまわし、見えていないのか確かめている。
「お父様!? なぜ!? でも、なんだか、若い」
言われてみればそれは確かにアルフレッドだ。どれほど前なのかはわからないが、最近見た姿よりも増して筋肉質だ。若いアルフレッドは、歌を歌うように口を動かしている。見えているのは映像だけで、音は聞こえないようだ。そして、何かを探すとような仕草をした後、テーブルの下を覗き込んでいる。
「こ、これ、どういうことですか!?」
「わからない」
アルフレッドが小さな赤髪の女の子をテーブルの下から優しく持ち上げると、女の子はじたばたと暴れだしてしまった。そこへ束ねた髪型以外は今の姿と何一つ変わらないダリダが現れて、暴れる女の子をアルフレッドから受け取った。それでも女の子は泣き続けていたがダリダに背中をさすられると、やがて泣き疲れて眠ってしまった。