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過去と未来を紡ぐ場所 第三話

 彼女の向いている方向を見ると、遠くに小さな点が見えた。次第にそれは大きくなり、その点を中心にパースで引いたような四本の線が迫ってきた。大きくなっていくそれは蛍光灯のような照明だったのだ。連なる灯りを点けながらその線が近づいてくると、ガシャンガシャンと変電所の金属レバーを下げるような音が連鎖して聞こえ始めた。

 その音とともに線がさらに近づいてきたかと思うと、何も無かったはずの空間に左右の壁と上下の天井と壁を出現させ、あっという間に目の前を通過していったのだ。照明がつき明らかにされた壁と天井には棚があり、それが見え始めた廊下の先まで切れ目無く連なっていた。


 突然現れた壁と天井、それから無数に連なる棚に驚き、先の見えない廊下を反対から反対まで見渡していると、「本棚? 図書館でしょうか?」とアニエスが尋ねてきた。

 目を細めて見ると、確かに彼女の言ったとおり壁を覆う棚は本棚のような造りであり、何か様々な物が並べられているのが見えた。しかし、その一つ一つははっきりとしなていない。立体視が無く、平面に写った物を眺めているような、例えて言うなら、画質の悪いテレビを見ているようなのだ。さらに目をこらしてみると、その棚に並べられている物は背表紙だけでは無いことに気がついた。


「いや、違うみたいだ。置いてある物が本だけじゃなさそうだ」


 その棚の一つに近づいて何が置かれているのかを確かめるため、俺たちは本棚に向かって歩き出した。しかし、すぐ近くに見えていたはずだがなかなか近づくことができず、さらに棚は近づけば近づくほどに大きくなり、そして、解像度が上がるように姿形がはっきりとしていった。

 思わず駆け出して、五分ほどかけてたどり着くと、壁と同じ色をした棚は角の丸い正方形の筒を横に倒し並べ積み重ねてできており、見上げるほど大きな物だったのだ。筒の中はパーティションで区切られており、その一つ一つに壺、絵画、石像、様々な物が丁寧に置かれていた。見上げるほど大きな棚は本棚ではなかったのだ。


 隣の棚には何が収納されているのかと遠くに見えたそこを覗うと、パーティションの中は背丈の違う様々な厚さの物が所狭しと並べられており、凸凹と不揃いな背丈は、乱雑にしまわれて整理されていない本棚のようにも見えた。遠くに見える隣の棚に陳列されている物は違う様子なので、そこを見てみようと移動しようとすると今度は一歩でたどり着くことができた。通り過ぎてしまいそうになり、ふと後ろを振り返ると先ほどの棚が小さく見えている。遠近感覚がおかしくなりそうだ。


 整っていない背丈はすべて背表紙で、今度はやはり本棚のようだ。革製であったり、表紙を含めてすべて紙であったり、色とりどりだ。

 アニエスはそのばらばらに乱雑にしまわれたような本が並ぶ一角で、唯一同じ背丈でまとめられたパーティションの前で立ち止まり、何を思ったのかそのうちの一冊の背表紙を人差し指で引き倒すように不意に取り出した。


「触って大丈夫なのか?」


 手に取った物は上品な革の装丁が為された一冊だった。前腕部に置きながら、こちらを見ると頷いている。


「大丈夫みたいですよ。何が書いてあるんだろう」


 髪を耳にかけて何気なくそれを開くと、本から強烈な光が放たれた。驚いたアニエスが床に落とすと、その光は集まりはじめ、どこかの映像を映し始めた。ガラスの瓶の底から除いているかのようにぼやけ、セピア掛かったその映像は次第にはっきりとしていき、そこに赤髪を三つ編みにした小さな女の子が現れた。


「これ……私?」

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