彼らの商量 最終話
「使徒専用回線へ。コード、リマ、エコー、アルファ、ホテル。ノルデンヴィズ北5東3ブロック内12番路地にて“キング・シュワルツゾンプ”、“クイーン・ロートヘックス”、“ポーン・アノニュー23”と会敵しそのまま交戦、“キング”および“クイーン”は魔法により消し飛び、“ポーン”は狙撃により後頭部に被弾。状況から見て即死。二名は消滅、一名は死体を確認済みです。“ポーン”および現場の処理をお願いします。オーバー」
ぼそぼそと聞こえた通話内容によれば、どうやら他の使徒と連絡を取っていたようだ。話しぶりでは、このままでは俺たちは魔法で消し飛ばされてしまうようだ。だが、レアは応答待ちをしている。俺たちはその隙に逃げだそうとした。
しかし、レアはすかさず反応した。無言で袖から滑り出させるようにキャップのついた万年筆を持ち出して、先端をこちらへと向けて来ている。その先端が小さく光ると銀色に輝く水滴が一粒滴った。地面に落ちたそれは導かれるように俺たちの足下へ向かって来た。そして、目の前で二手に分かれると地面に模様を描き始めたのだ。よく見るとそれは魔方陣だったのだ。
「イズミさん、これは時空系魔法です! 今すぐこの場を離れてください!」
腕の中のアニエスが足下の魔方陣を見るとじたばたと暴れ出した。俺は襲撃に緊張し、力がこもってしまっていたようだ。思い切り押さえつけていたようで彼女の腕は赤くなってしまっていた。だが、極度に全身が強ばり、力を抜くことができずアニエスを押さえつけたまま放せなくなってしまった。
「おとなしくしてください! 私の“羊飼いの如何様”からは逃れられませんよ!」
レアが万年筆のキャップを親指であげるとカチッと音が鳴り、魔方陣の中心に黒く穴が開き始めた。そして、穴の縁に見えていた光がその中に吸い込まれているように歪んで見え始めた。逃げ出そうとしたが、すでに片足がそこに強固にとらわれており、黒い穴の中へ引きずり込まれるように長く伸びて見えている。強くそこへと引かれているが、痛みや奇妙な感覚は一切無いのが不気味だ。
だが、とらわれたことに変わりは無く、そこから足を引きずり出そうとしたが、足の先はすっかり闇の中に取り込まれてしまいびくともしなくなっていた。
「さぁ、自由と放埒の日々はおしまいです! そこにしばらくいてください!」
レアがペンのキャップを親指で反時計回りに回すと穴の広がる速さはさらに上がり、足首、脹ら脛、膝とみるみるその歪んで伸びて見える穴の境界へと飲み込まれていった。アニエスだけでも逃がそうとしたが、投げ出そうとする前に体の半分も飲み込まれてしまった。落ちるという感覚と言うよりは下へ下へと引きずり込まれる力はさらに強くなり、もがき動こうとすることもできない。そして、ついに全身がそこへと飲み込まれてしまった。
飲み込まれる瞬間はほんの一瞬で、意識するよりも早く暗闇に包まれた。見えていた穴の中はどこまでも真っ暗な空間で、光も無いのか自らの姿さえもはっきりと見ることはできない。何とか首を持ちあげて上を見上げると、窓のように丸く穴はあいていてまだ外の景色は目の前に見えていた。
まだ届きそうな位置にあったので重たい手を伸ばしたが、その光には届かず、見えていたノルデンヴィズの町並みは小さくなっていった。その小さくなっていく景色の中にいるレアが持っているペンのキャップを閉めている様子が見えると同時に、窓のようなそれはさらに小さく縮んで光の点になり、やがて消え何も見えなくなってしまった。
NATOフォネティックコードに変わる暗号を考えつかなかったので、使用しました……。