彼らの商量 第十二話
どこの仕業か、それを考える前にまず自らの安全を確保すべきだったのだ。弾の飛んできた方向から考えて、遠距離高所からの狙撃だと思っていた。しかし、たった今撃ち抜かれてしまったドミニクの話の中で、昨夜勇者狩りをしていたのは二人組だったことを思い出した。
スナイパーではないもう一人は、俺たちの背後にいたのだ。
アニエスを守るためにひたすらに頭を腕と胸の中に押し込み、右手で杖を構えた。
薄暗がりの影の中には、いつのまにか顔に白い布を被せ目だけを覗かせた背丈の低い女性がいた。不均天秤紋の入った白い装束の隙間に束ねた長い桃色の髪がちらついている。
顔など見えなくても誰であるかはわかる。ドミニクが言った“小せぇの”のレアだ。
だが、その見知ったかつての仲間の顔と、狙撃者が商会であるという答えは、危機的な状況であるにも関わらず、混乱を解きほぐし心の中にほんの少しだけの安堵と余裕を与えてくれた。
カルルとの面会中に顔を出したのは、まさにこのレアであり、取引をすると言ったので銃を手にしている可能性は大いにある。
「レアか! ドミニクを撃ったのが君たちで少し安心したよ! だけどこんなことでいいのか!? 人を殺した気分はどうだ!?」
暗がりで目を光らせながら一歩一歩と迫ってくるレアに、まるで試すかのような事を俺は尋ねた。強がって見せはしたが、足や腕の振戦は絶え間ない。
「なんとも」
脅しにもならなかった問いかけに、レアはふーんと長く息を吐き出しながら鼻を鳴らした。
「これまでに私が人を殺したことが無いとでもお思いですか? 今回はもう一人がやりましたが、残念なことに私も処女ではありません。さてはて、私が私の中で殺人者になったのはいったいつだったでしょうか。被害者のことも覚えていません。そのときから、ありとあらゆる手段を講じて、何人も何人も」と両掌を前に出し見せつけてきた。
「それにしても、銃は良いですね。刃を食い込ませ皮膚を裂くと伝う、弾けるように押し返す感覚や、その下に大きく横たわる筋肉や硬くそして脆い骨を断つという、確かな殺人の感覚の一切が手に残りません。血の滴るようなステーキを躊躇いなく切れるのに、相手が生きているとなると躊躇いを残して一思いにできず苦しませてしまう新人にはもってこいですね」
布の被さる顔がはっきりと見えるほどの距離まで近づいてくると、レアの歩みは止まった。
「さて、イズミさん、何をしているんですか? 私個人にはあなたの目撃情報が入ってきていますよ? 最近は何もせずあちこち放浪されているそうではないですか? 和平はどうなさったんですか?」
俺はアニエスの頭をさらに覆うようにして抱え、尻をついたまま後退った。