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彼らの商量 第十一話

 同時にゆっくりとうつ伏せに倒れていくドミニクの後頭部から一本の赤い筋が立った。それが空中に広がり、霧のようになって見えなくなるとドミニクは地面にドサリと落ちた。

 浅い側溝に落ち込んだ腕や伏したように地面を覆う胴は動いているが、まるで意識を持って動いているわけではなく反射のように小刻みに震えている。ドミニクの外後頭隆起の辺りから流れ出た赤い水は広がり、路地の石畳は真っ赤になった。大きくなるその水たまりに、飛び去っていった鳩が落としていった羽根が数枚浮かんでいる。

 血はやがて義手の下にまで広がり、その血で魔力回路がショートしたのか、指が大きく動いた後に掌を開き、静止した。


 予測できていたはずの光景に俺は言葉を失ってしまい、間ができてしまった。


「くっそ! アニエス、伏せろ!」


 その間にどれほどの時間が経ったかはわからない。狙撃者にとっては対象をスコープの中心に入れて引き金を引くには十分なほどの時間だったのは間違いない。それでも俺はすかさず路地のさらに奥へと後退し、アニエスの頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「イズミさん、今のあれは間違いなく銃です! 出血の方向から見てかなりの遠距離からの銃撃です! ドミニクさんを撃ったのは北公なのですか!? 商会ではないのですか!?」

「クソ、クソ! クソクソクソ! わからない! 銃を持つのはまだ北公だけなハズだぞ!? クソ!」


 そのとき、俺はククーシュカを一瞬疑った。


 シリルは彼女に腕を切り落とされ、義手になったのだろう。二人に因縁がないとは言い切れないのだ。そして、あの子も銃を持っている。基地襲撃時に拾い、その後放浪中の俺たちを何度か撃ってきた。俺の知るククーシュカは銃の扱いは上手では無く、焚火の襲撃時には、暗闇とは言え近い距離で撃ってきたにも関わらずかなり狙いが悪かった。何発か撃ってきたが、幸いにも被弾することは一度も無かった。


 しかし、今放たれたたった一発の銃弾は、迷い無くドミニクの後頭部を正確に撃ち抜いた。そして、発砲音が全く聞こえなかった。何かの音に紛れ込ませて――おそらく鳩の羽音とドミニクの大声――タイミングと狙撃者の居場所を気づかせないようにしている。

確かにククーシュカは器用だが、短期間で射撃術を習得したとも考えにくい。明らかに使い慣れている者の仕業だ。


 現時点で銃があるのは共和国、ユニオン、そして北公。魔力射出式はもはや骨董品であり、流通するとは思えない。共和国内での銃規制の関係でユニオンには魔法射出式だけが入っている。

 しかし、頭蓋骨を撃ち抜くほどの威力があるのは、三種類の内では魔力雷管式だ。ならば共和国か? だが、共和国が勇者狩りに協力する理由は何だ? メリットがなさ過ぎる。


 わからない。わからない。


 モンタンが共和国から持ち込みリバースエンジニアリングした魔力雷管式銃の技術は北公からまだ流出していないはずだ。俺たちが放浪している間に広まったのか?

 いや、無理だ。オージーとアンネリですらコピーにあれほど時間をかけていたのに、この二、三ヶ月でそこまでに達するのは無理だ。ではどこの勢力だ? 北公への保護はかえって危ないのではないか? 密輸か?


「誰だ!? 誰なんだ!?」


 混乱のあまり、誰に問うでも無く返事など無いとわかっていながらも、暗闇に向かって声に出し悪魔に問わずにはいられなかったのだ。


「わからなくて構いませんよ。知ったところでどうにもなりませんからね」


 路地の裏の暗がりから声がして、鼓動が鑵を打ち呼吸が止まった。頭の中に渦巻くその混乱への回答は予期せぬ形で返ってきたのだ。

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