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彼らの商量 第十話

「あ、あいつはおれの親友だ! シリルの形見だ! 拾わせてくれ!」

「待て! やめろ! 絶対罠だ! 堪えろ!」


 アニエスと俺の間に割って入り、掌で顔を押さえつけてまで通りへと繰り出そうとしているドミニクの腰に巻き付くように押さえた。


「放せ! おれとシリルはなぁ、お前らに会った後にまともに働こうとして有り金はたいて指まで動かせるあの魔工万能義手(マジネリンプロテーゼ)を作ったんだ! お前にはただの義手にしか見えねぇかもしれねぇが、あれはタダの形見なんかじゃねぇ! おれとシリルの再出発の一歩だったんだ! 放せ!」


 まさに出て行こうとしているドミニクの腕を両手で掴んで静止したが、太い腕がさらに太くなると、信じがたいほどの力で振り払われてしまった。


「放せ! おれにはあれが必要なんだ!」


 それでも行かせまいと上着の背中を掴もうと手を伸ばしたが、親友の形見に血眼になってしまったドミニクは素早く、つかみ損ねてしまった。


「おれにはあいつしかいないんだ! 無駄な敵討ちなんかしねぇ代わりに、形見くらいいだろう!?」


 まだ行かせるわけにはいかず、さらに手を伸ばした。しかし、これ以上手を伸ばしてしまうと、仮にシャツの裾の一部を掴めたとしても俺まで通りに引きずり出されてしまう。彼の身に何も起こらないことを願い、ドミニクを引き続けてあわや見通しのきく光の中に曝しそうになってしまった右腕を急いで引っ込めて暗がりに下がり、アニエスをたぐり寄せ体に覆うようになった。もはや何も起きないというのは回避できないだろう。様子を覗うべくアニエスから手鏡を受け取り、半分以上壁が写った鏡越しに通りを見守った。


 広くはないが見通しの効く路地は明るく、暗闇に慣れていた目には白くまぶしい。

そこへドミニクはついに飛び出し、そして、まだ誰かが置いたばかりのように揺れているその義手に向かって駆け出した。


 周囲にいた驚いた数十羽の鳩たちが突然現れたドミニクの巨体に驚き、一斉に天へと飛び立っていった。間近で羽ばたく鳩たちの筋の音が遠ざかっていくと、シリル、シリルとドミニクはその義手の持ち主の名前を繰り返し呼び、その勢いのあまり前のめりに転ぶようにそこへと近づいていく。震えながら伸びた右手の人差し指が、義手に付けられた小指球の錆びた真鍮製のリベットに触れようとした。


 だが、親友の義手に触れることは無く、ドミニクの手は義手に影を落とし、そしてその上を飛び越えるように通り過ぎていった。

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