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彼らの商量 第八話

 アニエスに杖を構えるように視線を送った。彼女も何かを察したようで、すでに杖を強く握りしめ、辺りを警戒している。まだ近くに襲撃者がいるかもしれない。


「た、頼む、イズミ、昔のことは謝る。だ、だから助けてくれ!」


再び見下ろすと、男は足下にすがりついてきた。


「お前のことを助ける気にはならないなぁ。この子に何してくれたか忘れたわけじゃないだろうな?」

「すまねぇ! 本当に申し訳ないことをした! 頼む! お前、まだ力は残ってるんだろ!?」

「イズミさん、私はもう気にしてませんよ。というか、高速移動の勢いに力の限りを乗せて殴っちゃったの私ですし」


 俺は右手を挙げてアニエスの言葉を止めた。もちろん、見捨てるわけではない。自分のしたことを後悔してるかどうかを見たかっただけだ。


「状況が状況だ。今回ばかりは助けてやる。お前は不愉快な形で知っちまった顔見知りだからな。それにしてもお前、よく昨日まで生き延びてたな」

「な、なんか知ってるのか?」

「色々とな。俺もこの子も商会に狙われてる。まずは昨日のことを簡単に教えてくれ」

「き、昨日の夜だ。おれたちは職業会館で仕事を終えて酒を飲んだ後に帰ろうとしたときだ。路地で突然白い面みたいなのを付けたでけぇのと小せぇのの女二人組に挟まれたんだ。すぐにやべぇって気づいて構えて、相方、シリルが地面を吹き飛ばして隙を作ってくれた。おれともう一人いた奴はそのうちに逃げられたが、シリルは強烈な炎熱系の魔法か何かであっという間に消し炭にされちまった」


 白面布と来たら、やはりヴァーリの使徒以外考えられない。そして、その“小せぇの”はおそらく。


「作戦変更しましょう。とりあえず人混みに逃げませんか? 人混みに逃げればおおっぴらなことはしてこないはずです。私たちは北公に監視されているだけで、行動の自由はあります。それに彼らは商会のように命を狙っているわけではないので」

「ま、待て! 待て待て!」


 しかし、アニエスが提案すると男は身振り手振りを大きく振り回し始めた。


「だ、ダメだ! 人混みはあいつらの集団みたいなモンに違いねぇ! そうやって誘い出して一網打尽にしちまうんだ! 昨日のもう一人が不自然な人混みに飛び込んで、その途端いなくなっちまった! それ以来、消えちまったみたいに気配が全くないんだ!」

「やはり……手段を選ばないようですね」


 おそらく、直接手を下しているのはその二人だ。そして人混みは協力者で、目隠しといったところだろう。この男は北公に、いや商会の手が届くところにいればいずれ殺されてしまう。となると逃がすところは一カ所しかない。


「お前、名前は? 何か得意なことあるか?」

「ドミニクだ。力仕事ぐらいならできる。だが、この街にゃあもういたくねぇ!」

「そうか。じゃあ、街の外に出たら商会の手の届かないところにポータルを繋いでやる。そっから先は悪事以外で勝手に生計立てて生きろ。金輪際関わるつもりはないが、もしお前が悪事を働いたとわかったら、半殺しにして凶暴トナカイの檻に放り込む」

「約束する! す、すまねぇ、ホントにすまねぇ……」

「よし、ドミニク、立て。走れるな? 俺たちはこれから街の外に出るつもりだ」


 落ち着いてきたドミニクはまだ小刻みに震えているが、足腰に力は戻ってきた様子だった。そこへ手を差し出してぐっと引きあげた。


「すまねぇ、恩に着るぜ! お前はやっぱ良い奴だ!」

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