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彼らの商量 第三話

「食べ物の方が大事になると換金効率も下がってきて、金銭的価値よりも労働力が重視される。戦況が悪化すれば、食料が(きん)よりも価値を持つ可能性がある? もしかして、意味が無いっていいたいのか?」


 そう言うとアニエスは大きく頷いた。


「そうです。閣下は質素な人で、金銀の宝飾を見せびらかすことを好みません。付けたとしても自らの権威を示す程度に抑えています。それに、ムーバリ上佐は魔力絶縁性を利用したいわけではないと言っていました。スパイだから信用できない、なんて言っちゃえばそれまでですが。でも、私は黄金をわざわざ急いでまで探す必要は本当にあるのか、正直わからないんです。だから、そんな意味の無いものなんてあげちゃえばいいんです」


 寄りかかっていた棚から体を起こすと、ベッドの方へと歩み寄り「そういえば」と言って隣にかけた。


「イズミさん、病院からの車の中で“黄金より大事な物見つけた”って言ってましたよね?」

と微笑みながらこちらを見つめてきた。


「えっ、あ、まぁ、いや……」


 俺はわかりきったようなその微笑みに恥ずかしさを覚えて、気まずそうに視線を逸らしてしまった。


「それが何かは私は知りません。でも、黄金ではないのは知っています。黄金が大事でもないし意味も無いなら、あげてしまってもいいのではないですか? もちろん、私も黄金なんていりません。あなたの側にいられればそれで良いんです」


 間ができてしまった。


「ああ、あ、ありがとう……。いや、でも、どうするんだ?」

「まずククーシュカちゃんを先に説得しましょう。それで私たちの手中に収めてしまうのです。そして、歌い手は無事確保しましたって報告しましょう。上佐は歌い手を連れてこいとまではいいませんでした。だから、ククーシュカちゃん、歌い手と一緒に行動して、黄金探してますってふりをして、黄金に関する歌や情報はムーバリ上佐たちにすべて伝えてしまって先に見つけさせれば良いんです」


 確かに気がかりを先になくしてしまえば、それからどうするかを考えやすくなる。だが、モンタンの反応とアニエスの見解を鑑みると、黄金を何に使うのかはっきりしない。故にあまり彼らの手に渡したくは無いのだ。


「黄金を渡すのはなぁ……。大事とかそう言うのではなくて、閣下たちが何に使うかハッキリしないとなると、ちょっと怖いんだよね」

「それなら、ククーシュカちゃんにデタラメを言って貰いましょう。私たちの手の中にいれば可能ですよ。そして、実は財宝というのはそこにたどり着くまでに築かれた仲間たちの絆だったのじゃ! みたいな展開にしてしまえば良いんですよ」


 そう言いながら残った三センチほどのクッキーを人差し指と親指で高くつまみ上げた。それにつられるように顎を上げて口を開けると、クッキーを落とすように口の中に放り込んだ。美味しそうにもぐもぐと頬をゆらしながら笑っている彼女を見て思った。


「アニエス……、何か変わったなぁ」


 悪い意味では無く、強くなったなと仕草からも感じる。それとも、元々の心の強さが表に出てきただけなのかもしれない。ブルンベイクの雪山でおどおどしていたアニエスではもうないのだ。


「あなたのが移ったんですよ。ふふふ」


 クッキーを食べ終わると、包み紙の角と角を合わせて丁寧に畳んだ。それをポケットに入れ、手についたかすをぱんぱんっと払うと小さく笑った。


「いいのか? どっちにしろ三人一緒に行動することになるけど」

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