彼らの商量 第一話
一話千~千五百字程度にして五、六分で読める内容の方がいいと聞いたので、今回からしばらくその文字数でお送りいたします。その分、更新頻度が少しだけ増えます。
色々と、困った。
ノルデンヴィズの拠点のベッドに腰掛けながら頭を抱えた。これからククーシュカを説得するのだ。それは間違いない。しかし、戻ってきたはいいものの、俺たちはその説得対象をクライナ・シーニャトチカ南部に置き去りにしていた。わざわざ襲撃者であるククーシュカには昨日は遭うことはないと告げてまで共和国へと行ったので、遠くへ入っていないはずだ。
だが、それは彼女が素直にいないことを受け入れていればの話だ。被襲撃者が明日はこの場所にはいないというのは、攪乱だとも受け取られる。というよりも、そちらの方が普通かもしれない。そうなるとどこへ行ったか探し始めるはずだ。
もし、俺たち二人の追跡のためにククーシュカがマジックアイテムを使って移動魔法でどこかへ移動してしまっても、共和国の追跡装置を使えば場所はわかる。しかし、徒歩で移動してしまうとその足取りをたどることは不可能だ。彼女の脚力は普通の人の倍はあり、行動範囲もそれに比例するのだ。今日遭うことができず、彼女が俺たちを探しどこか知らないところへ移動してしまうと追跡は不可能になる。
説得は確かにしなければいけない。説得した後はどうするのだろうか。三人仲良く旅でもするのだろうか。いずれにせよククーシュカとは行動を共にすることになるだろう。
今日のうちにクライナ・シーニャトチカ周辺に戻り、ククーシュカに会えば良いだけのことだ。今すぐにでも彼女のもとへ向かい、説得をすればいいだけのことだ。会えないかもしれないという問題は些細な問題なのだ。
だが、俺たちの前にはそれよりも尻が重くなる理由が横たわっている。
会えないかもしれないということよりも大きな問題というのは、ククーシュカが『白い山の歌』の歌い手であることだ。彼女を説得し行動を共にすると言うことは、カルルの指示通りに動いたということになるのである。
俺の頭が重いのは、マゼルソンの書斎から直接ノルデンヴィズにポータルを開いたことを今更になって後悔しているからなのだ。ノルデンヴィズに向かったと言うことは、事実上カルルの命令に従うと言う返答をしたに等しい。
もし、どこかよそに――例えば荷物を取りに戻るためとギンスブルグ家敷地内に――開いてさえいれば、ある程度ごまかしはきいただろう。しかし、モンタンは俺たちがノルデンヴィズ、北公の領土に向かったところをもろに見ていた。
これで逃げ出せばカルルの指示も無視したことになり、アニエスまで今度こそ本当にお尋ね者になってしまう。彼女はそぶりこそ見せないが、きっと両親のことを気にかけているはずだ。いつか探し出すときのことを考えると、彼女の北公での自由は守らなければいけない。
うなり声を上げてしまい、顔をゴシゴシ擦った。くたびれたおっさんの饐えた匂いがする。そして、瞼をぐっと掌で押して前屈みになると、アニエスが覗き込んできた。
「迷ってるんですか?」
「ごめん……。いや、さっき直接ノルデンヴィズに向かったのは間違いだったって今更気がついてさ」
「ククーシュカちゃんを説得することがまるで黄金探しの一部みたいになっちゃうのが嫌なんですよね」
顔から手を放し、恨めしそうにアニエスを見上げた。彼女は仕方なさそうに笑うと、姿勢を戻して後ろで手を組んで窓の外を見た。
「黄金なんて、そんなもの上げちゃえばいいんです」