表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

447/1860

深雪と深紅の再会 第十二話

 俺はまだユニオンで受けた任務があり、カルルの動向を探らなければいけないのだ。だが、カルルからはお尋ね者で、オマケに脱走幇助。基地にはもう近づく事はできない。

 しかし、アニエスは北部離反軍の重要なポジションに就いている。両親のアルフレッドとダリダは離反を後押しした有力者。これは使えるのではないだろうか。


「アニエスは確か北部離反軍の特殊隊長とか言う立場だったな?」


 アニエスは口をへの字に曲げながらハンカチで杖についた血をふき取り、中佐です、と頷いた。


「いったん基地に戻りたい。正直に言うと、俺はユニオン首脳部からカルルの動向を探るように指示されてるんだ。

 もちろん、それはユニオンが攻め込むためじゃない。それを伝えた上でカルルと話がしたいんだ。

 今俺はカルルのお尋ね者になっていてそんなことができる状態じゃない。疑いも真実じゃないんだ。そこでアニエス、君の力を借りたい」


 情報収集を目的としていることが本当にユニオンの国防上の理由なのか怪しまれるかと思ったが、彼女は表情を変えることなく大きく頷いた。


「わかりました。あなたにかけられた疑いを晴らしてくれってことですね。任せてください! ではさっそく」と杖を掲げポータルを開こうとした。しかし、すぐさま彼女の腕をつかみ静止した。


「いや、ストップ」


 ノルデンヴィズ周辺には移動魔法が使える人間が多すぎる。現時点で俺、アニエス、ヤシマ、ククーシュカ、だいぶ離れているがレアまでもいるのだ。

 緊急事態で先ほどは何も考えずに使いまくっていたが、よく考えれば移動先が混線するリスクが非常に高い。混線してますますややこしいことにならなかったのはなんと運の良いことか。

 それに、もうヤシマが二人をラド・デル・マルまで送り届け終えたかはかわからない。杞憂で済むならそれでいいのだが、万が一のこともある。簡単に使うわけにはいかないのだ。


「移動先が混線するかもしれないんだ。少し後にしてくれ」


 するとアニエスは杖を納めてくれた。

 そういえばアニエスはまだカミュとティルナの追跡をしていたことを覚えているのだろうか。

 口に出す気配はないし休憩したいと先ほど言っていたので、どうでも良くなったか、忘れていると言うことにしておこう。

 余計なことを言って思い出させるわけにはいかない。せめて二人が逃げられたくらいにさりげなく言えば……。


「あ、そうだ!」


 アニエスは突然明るくなっていた表情をきりっとただし、俺をまっすぐに見つめてきた。


 しまった! 思い出しちゃったか!?


「イ、イズミさんはぁー……、お、大きい方が好きなんですよね……? えへへ……」


 裏返った声でそう言うと、後頭部を掻きながら照れ笑いをしている。

 セーフ! 色々そのままのぼせていてくれ! 思い切りため込んだ息を吐き出してしまった。


「ああ、まぁ、ね? そうそう、大きい方がすっごくいいよ! うんうん!

 それは置いといて、とにかく今はここをでるぞ。でも、移動魔法は使える奴が周囲に多すぎる。

 気が付かないうちに混線する距離で使って、移動先が変なところになるかもしれない。

 いや、最悪の場合、はち合わせになるかもしれない。それはどうしても避けたいんだ。移動魔法以外で基地に向かおう」


 ククーシュカとの再遭遇の可能性よりも、俺はティルナとカミュを送るヤシマとの混線を避けたい。反応を見る前にアニエスの手を強く引いて外へと駆け出した。


 降り始めていた雪はすっかり降り積もり、とっぷりと夜も更けて誰もいなくなった通りは真っ白になっている。

 少し前に雪の通りを誰かが歩いたのか、靴底から落とした砂利を残した、まだ出来たばかりの足跡がいつものあの広場へと向かっている。


「寒くはないな?」


 その足跡に逆らうように街を走る途中、すぐ右後ろを走るアニエスに視線だけを送り尋ねると、微笑みながら頷いた。


「調子いいくらいです!」と白い息を上げて答えた。疲れてはいるようで息は上がっている。

 体の方は本当にもう問題がなさそうだ。もともとない状態に戻したのだから当たり前のことではあるが、やはり心配だった。


「とりあえず街の外まで行こう! 転ばないように!」


「わかりました!」


 真っ白になったあの広場、真っ暗なショーウィンドウに豪華な杖が並ぶあの杖屋、その向かいの廃墟と化した元骨とう品店、営業時間外のウミツバメ亭、あの二人の元勇者に殴られた通り。誰一人いない明かりの消えた町を駆け抜けた。

 先ほどから見えていた他の誰か三人の足跡は、降り続ける雪に覆われて次第に消えて行く。街の外への門までの道はしんしんと積み重なる新雪の中へと沈んでいく。

 人のいない雪道に足跡を残していくのは自分たちの居場所を伝えてしまうような物だ。できれば早く人の目の多いところに、常にがやがやと活気のある南部前線基地に移動したい。その方がククーシュカも襲撃しづらいはずだ。


 そして、ノルデンヴィズの入り口にまでたどり着いた。移動魔法はダメ。歩いて行くのは遠すぎる。馬車などない。さぁ、どうする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ