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回る物を回す者 第四話

「それは閣下の手腕次第ですね」


 早雪の年だ。どれほどの手腕があろうとも、どれほど北部の人間たちが冬の寒さに慣れていようとも、自然の力を前に流通を無視しては成り立たないだろう。


「ところで、お尋ねしたいのですが、閣下はもう第二スヴェリア公民連邦国と言う国はもう存在していると考えてよろしいのでしょうか? まだ成立はしていないと受け取れますが」


「段階はまだ踏んでいない。国の名前さえもまだ機密事項だ。だが、国のあるべき姿は広く伝えてある。それに賛同して民衆が立ち上がったのだ。国として成立した後、恒久的に安定させていく」


「確かに思想の渙発は大事ですが、まだできてもいない物をさもあるかのように掲げるのはまだ早い気がします。

 市民は社会基盤がそうなる前にすでに自分たちの国はそうなっていると思い込んで生活を始めます。

 事実そうなのではないでしょうか? 最近の前線の停滞気味は、職業軍人たちが戦争もすでに効率化が図られていると思い込んでいるために最低限のことしかしていないためではないでしょうか?

 国家成立前にすでに停滞の兆しを見せています。現時点においてそれは安定では無く停滞気味であり、放置すればやがては衰退に向かうでしょう。

 重ねてお伺いいたしますが、国家樹立を宣言する前に、閣下はこの離反の戦いをどこに向けて収束させるおつもりですか?」


「言った通りだ。すべての市民の平等を確保するためだ。

 まずはその大いなる理想への足枷である現代にまで蔓延ったスヴェンニーへの迫害の解放をしなければならない」


 閣下のその言葉はどうも歯切れが悪い。あまり具体的ではないようだ。やはり国を立ち上げるために味方につけた多くのスヴェンニーを優先させている。大方、そのスヴェンニーたちからの圧力もあったのだろう。

 だが、まず彼らの権利立場を保証させようというのは容易なことではない。過去の遺恨は根深く、そして醜悪にそれでいてさりげなく世界を蝕んでいる。

 このまま順調に連盟政府を攻め続け、首都を陥落させたところでそれは収まらないだろう。

 おそらく、戦いの後にスヴェンニーには何かしらの特権が与えられることになる。だがそれは国を立ち上げてなお残り続け、それがスヴェンニー以外の怒りを買ってしまう。それが第二スヴェリア公民連邦国内での分裂を生みかねない。

 しかし、光と影の両方に存在し、それこそを生業とする私たち商人にそれがコントロールできないはずがない。その遺恨と怒りをただの不平等たらしめて、国を操り発展させ、消費を発生させるのもまた私たちの仕事。

 カルルの思想をうまくいかないといって否定してしまうのは、消費にすらつながない。

 私の話を聞いてしまったカルル閣下、あなたはすでに私の見えざる手の中にいる。第二スヴェリア公民連邦(大事なお客様)国に損はさせない。得もさせない。得をするのは私たち商人だけでいいのだ。


 もちろん、それで私たちは贅にふけろうなどとは思わない。美味しい食べ物、美しい芸術品、楽しい劇や創作物、人をエルフを獣を魔物を殺すための怪しく光る多種多様な武器、そのすべては悪魔的で蠱惑的で魅力的で、私も狂おしいほどに大好きだ。

 だが、それらを提供し消費させるのが私たち商人。私たちの得こそ、損得ではない国の利益の底上げ、消費の超拡大、ひいては大いなる発展なのだ。私がそれらを愛してやまないのは、消費者たちが進んで自ら大量消費をするからなのだ。


 ああ、何と素晴らしいのでしょう!

 すべてを輝かせるのは、醜く潤う金と不平等! 影が暗く長いほどにより美しく鮮明に!


 思い浮かべて胸いっぱいになっている場合ではなかった。まずはお客様との商談を成立させなければいけないのだ。


「つまり、あなたはまだ解放軍なのですね?」


 そう尋ねるとカルルはぱたり黙りこんだ。頬杖をついて口を押えている。


「やはりそうでしたか。最近はスヴェンニーたちへの差別も軽減されつつあります。

 やや時代遅れの理由ですが、停滞しきった連盟政府から独立をなすための大義名分としては申し分がありません。

 戦いは始まってしまいましたが、言ってしまえば理由などそれらしければ如何様でも良いのです。これは総統閣下にとって大事な第一歩となるでしょう。

 ですが、解放軍のままではいつまで経ってもただの反逆者止まりです。早々に戦いを終わらせ、国として歩み始めなければなりません。

 そのために私、レア・ベッテルハイムはあくまで個人であなたに必要な物は必ずお売りいたします。

 まずは終着点を具体的に決めてください。それまでもそれからも、私レア・ベッテルハイムは閣下の味方でございますから」


 付け加えてにっこり微笑んで差し上げた。

 終着点などありはしない。終着点はどこかの国家の終焉なのだから。


 一度商談にけりが付きそうなったときだ。入り口のカーテンが揺れるとイングマールの灰色軍服の男が顔をのぞかせた。伝令の下級兵が入ってきたようだ。

 灰色の軍人は背筋を伸ばして敬礼をすると、「総統閣下、お話中失礼いたします」と低い声で言った。


「何用だ?」と言われると敬礼を解き閣下に近づいていった。そして「また面会を申し出ている者がいます」と囁いた。


「今宵は多いな。一体誰だ?」


「イズミの後輩を語るカトウと言う名前の者です。先ほど通報をしてきた店の者だそうです」

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