回る物を回す者 第二話
「何度も言うが取引をする相手は連盟政府領なのだろう?
どれほど距離があろうとも運ぶ方法は貴様の特異な移動魔法を利用すれば容易いのは分かるが、連盟政府に反旗を翻した我々に燃料を売る様な裏切り行為をする自治領主がいるとは思えないが」
これは意外。一蹴せず繰り返し尋ねるのは興味がある証拠。閣下は目下敵対中の連盟政府の領主から硝石を買う意志はお持ちのようだ。
「あら、購入には前向きなご様子ですね。てっきり、連盟の物など使えるか、などと激高されると思いましたが。
ご安心ください。硝石の行方は伏せます。戦況報告懇親会と言う名目で領主たちを集め、そこで銃の実演をします。
そしてその場で、ユニオン独立により崩れた硝石の採掘の割合を調整する必要があるといい、より多く硝石を取引した領主へ優先的に販売する、と言えば領主たちはこぞって硝石を採掘するでしょう。
地質調査が進み、まだ未発見の、もしかするとユニオンより大きな鉱床が見つけられるかもしれませんよ」
「銃は優れている。だが誰もが飛びつくとは限らん」
「ご謙遜なさっておいでですね。ですが、それこそ銃を甘く見ていると思います。
失礼ですが、カルル閣下同様、地方領主は中央から離れるにつれて野心が強まる傾向にあるのはご存じですね。
地方采領弁務官が中央周辺の領主より派手な趣味を持ち、十三采領弁務官理事会に入りたがるようにね。あなたのように反旗を翻すまでする者はいませんが、何かと連盟政府内で業績を上げようと躍起になっています。
現在ユニオンとマルタン、さらに閣下の軍隊を抑え込もうとしていて、これまでの対共和国とは異なり明確な戦いが起きている、まさに戦争状態です。
長年停滞しきっていたところに戦闘が起きて、おまけに早雪と火山大規模噴火による日照不足が進み、どこも豊かさを追い求めるのは難しくなり、これまで通りのように派手さで競っていればいいという状況ではなくなってきています。
自治領の地位を示すためには、豊かさによる派手さ加減から戦場で残した確かな実績、武勲での評価によるものが大きくなるでしょう。そこで挙って武勲を立てようとし始めるのです。
そこで出てくるのが新兵器です。あなた方の持つその銃は共和国やここでは当たり前の物ですが、連盟政府内では真新しく、そして脅威です」
「そうなるとどこよりも先んじて強力な武器を手に入れようとする、ということか。
銃を持たせれば魔法を使えない者も魔法使いと渡り合える。硝石を安く大量に手に入れるために、銃を餌に競り合わせるつもりか」
総統はため息をして、顎を高く上げ救いようのない者を見つめるように諦めた顔をして私を見た。
「やはり商人は戦争がなければ生きていけないのだな。貴様の個人商会としての門出は武器商人か。死を売りさばいてのし上がるとは風上にも置けない。
銃を貴様に渡すことに私は異論ない。それが連盟政府側のどこかに渡ったところで、戦況は変わらないからだ。持ったとしてもそれを基にして作り出せるほどの技術者がいるとは思えない」
「ならば閣下にとっても不足はないはずです。
ですが、一つ申し上げておくと、銃のリバースエンジニアリングが他の自治領には不可能、というのは思い上がりですね。時間はかかるでしょうがおそらくそれはいずれ完成されます。
その時間こそが閣下が国をお作りになるタイムリミットでしょう」
私は最新式の銃がどういうものであるかは共和国で見てきている。魔法射出式に弾はなく、魔力射出式では大きい砲弾は飛ばせない。
私の頭ほどもある大きな砲弾が用意されていることから察するに、ベースはすべて魔力雷管式。だがそれには煙の出ない火薬、薬莢を排出する複雑なシステム、ライフリングなどの精密な技術が求められる。
北部は錬金術師が多い分、技術力は断トツで高い。故にこの数年の間に魔力雷管式銃をリバースエンジニアリングし、さらに改良を加え、ここまで発展させた。
これまで連盟政府に虐げられてきた錬金術師たちは、そのワーキングプアさ故に過激な思想に走りがち。それを閣下が後押ししためにここまで発展したは間違いない。
錬金術師は基本的に皆器用である。故に一人でも銃の複製は可能。
しかし、それでは金だけではなく、時間もかかってしまう。他の連盟政府所属の自治領は錬金術師を大勢集めて研究をさせるだろうが、これまで通り安く彼らを使役することは変わらない。
彼らに銃という新しい物に対する興味はあっても、低賃金によるモチベーションの低さゆえに時間は余計にかかるはず。
銃をコピーし終えて彼らが自身の硝石を必要とする頃には戦争も片が付いているのは間違いない。
完成させられないのは自治領の責任。もしそれで騙したなと喚くようなら、ヴァーリの使徒の手で消してしまえばいい。そして新たな取引相手を見つければいいだけのこと。
そして、当然だが、豊かな自治領以外を相手にするつもりはない。
技術力は抜群に高いが豊かではない弱小の領地に渡しても、大量生産にはこぎつけられないからだ。職人気質で良質な銃を少しだけ作り高く売っている様では、大規模な消費につながらない。
プレミア感による差別化を演出して売るような方法は、粗悪だが安価な銃が大量に作り出され市場が飽和してからでなければ意味をなさないのだ。
もちろん口には出さないが、おそらくカルル閣下も理解しているはずだ。
しかし、「閣下は私との取引に気が進まないご様子ですね」