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回る物を回す者 第一話

 イズミさんを外に放り出しテントの中に戻ると、指揮官たちは水を打ったかのように静まり返っていた。

 ある者は眉を吊り上げ、ある者は眉間にしわ寄せ、そしてある者は腕を組み見下ろす様になりながらまるで威圧でもするかのようにこちらを見ている。


「総統閣下、それでは商談と行きましょうか」


 無言の威圧を背中に受けながらカーテンを閉じ、手をパンパンっとはたいて机を挟んだ向かいからカルルに微笑みかけた。彼は不服そうに机に肘をついている。


「貴様はわざわざ商会の名を捨ててまで、この私に何を売りつけようというのだ?」


「商売敵もいなくなったことです。いつまでも未来という言葉で煙に巻くというのは失礼になりますね。まずは大きな一歩ではなく、その一とゼロの間、現状連盟政府と戦うためにあなた方が欲している物です」


「それでも具体的ではないな。売り物を見せない奴は信用できない」


「ならば、そうですね。まずは硝石でしょう」


 心の内を悟られないようにと微動だにしないが、指揮官たちの目の色がきらりと変わり、どこか色めき立つような雰囲気を刹那に漂わせた。

 やはり硝石は足りてはいないのだろう。いきなり要らないと断られることは間違いなくない。


「何を引き換えに差し出せというのか? 第二スヴェリア公民連邦国の通貨はルードではない。まだエインのみだ。

 サント・プラントンの連中がエインの価値をどれほど下げようとも、我々の国では通用しない。エインで取引を行い、それを連盟政府に持ち込んで損をするのは貴様ら商会だけだ。

 それどころか、個人で来たということは貴様一人だけということになる」


「確かにおっしゃる通りですね。連盟政府とあなた方の戦いに決着がつかない限り、取引などまともに行えるはずもないでしょう。

 連盟政府が価値を操れるエイン通貨と第二スヴェリア公民連邦国の中で流通するエイン通貨は全くの別物になるのですから。

 ですが、連盟も安易に通貨暴落をさせたりはしないと思いますよ? 安いエインを連盟政府内で手に入れるだけ手に入れて、それを持ってこちらにやってくる連中がいるかもしれませんよ?」


 しかし、実際のところ、連盟政府の中枢にそのような冷静な判断ができる采領弁務官がいるかは怪しい。

 先の共和国との交渉、ユニオンとの対話、亡命政府への無謀な支援などなど、それらが導いた現状を見れば不測の事態に対応できない無能の集まりでしかないことが明らかになったのだから。

 通貨においても極論に走る可能性は十分にある。それを回避するためにここでカミーユは生きて、生かされているのだ。


「そんなことは見通している。だが、貴様の話ぶりでは通貨をあまり重視していないように聞こえるが?」


「お分かりでしたか。私はお金が欲しいのではありません」


「では何を求める?」


 カルルはついていた肘を上げると、右掌を前に出してきた。


「それはたった一つで構わない物です。それが一つ手に入れば私は満足です」


「勿体付けずに早く言いたまえ」


「そうですか、では」


 修羅場を抜けてきた私であっても、これを言うのはさすがに緊張する。機密をよこせということとほぼ同義だ。

 口から息を吸い、顔を上げて、カルルの顔をまっすぐ見つめた。


「あなた方の使用している銃を、一丁いただきたいと思います」


「そんなことができるわけない! ふざけるな!」


 案の定、机に並んでいた指揮官の一人が大声を上げ、その彼に続くように他の指揮官もざわつき始めた。

 声を上げた指揮官の方を見ると、机の上に置かれた拳は強く握りしめられている。

 しかし、すぐさま閣下が声を上げた指揮官を制止した。閣下が他の指揮官たちとは異なり、取り乱すことのない冷静な反応を唯一見せているのは意外だ。


「なるほど、それで貴様はその手に入れたそのたった一丁の銃をどうするつもりだ?」


「お判りでしょう」


「売った金で硝石を買うと言うことだな? だが、果たして銃の価値を正しく理解、評価し貴様が提示した金額で買おうとする者がいるかな?」


「いえ、すぐに売る様な事はしません」


「ではどこから資金を調達する?」


「硝石は私の手元にある資金を基に購入します。銃については私が個人商会としてやっていくための交渉材料にします。

 どれほど私がトバイアス・ザカライア商会と言う大きな組織の中で立場があっても、そこから離れ個人で商会をして行くにはそれなりのリスクが伴います。

 顔見知りやコネをはじめとした人脈は確固たるものですが、それにも限界があります。これを欲しがる領主はたくさんいるので、使わない手はないでしょう」


「連盟政府内にはまだ多くの自治領がある。だがその中でも硝石鉱床のある自治領は多くないだろう。シェアの多くがユニオンのはずだが」


「おっしゃる通り、現時点で最大の硝石鉱床を持つのはリン鉱床同様ユニオンのシスネロス家ですが、当然ながら硝石はそこだけにあるわけではありません。

 ユニオン採掘量は全体の40パーセントで、ついで広大な領土を持つ友学連が20パーセント、残りの40パーセントはその他でまとめられているだけですが、実に多くの自治領で採掘されています。

 連盟政府での硝石の需要はまだ高くないので、減ったところで問題にはなりません。

 ユニオン硝石鉱床はアホウドリの糞由来ですが、海沿いでなくても硝石鉱床を持つところはあります。

 私が取引をしてきた内陸部の自治領でも鉱床を持つところはいくつかありますよ。例え海から離れていても大規模な蝙蝠の巣が存在すればバットグアノが採れます。まぁ、出来方云々はこの際はいいでしょう。

 加工時に解析するのはあなた方なのですから。私は銃を売らずに、まずはその価値を広めようと思います」

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