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ノルデンヴィズ南部戦線 第十六話

 机を囲む全員が、そのテントにいた指揮官たち全員が一斉にざわつき、カルルが椅子を足さんばかりに立ち上がった。そして、「なぜそれを知っている!」と大声を上げた。

 レアは両掌を上に向けて、さらににっこりと笑った。まるで知らないほうがおかしいというような当たり前の顔をしている。


 また独立国家ができるのか!


 エルフと人間がまとまるどころか、人間の中だけで分裂がいくつも発生している。

 眩暈を起こしたわけでもないのに、足元がふらつくような感覚に包まれた。いったいこの世界はどうなってしまうのだ。


 一言で場の空気を支配したレアは、群れに中に突然火の玉を投げつけられて慌てふためく牡牛ようなカルルたちに向けてさらに続けた。


「私は商人ですよ? 情報が命です。

 カルル閣下はただ離反したわけではないのでしょう。国をお作りになる気ではないのですか?

 ヴィトー金融協会北部前支部長の不審死による交代、辺境孤児支援基金と言う形での資金確保、為替操作によるルード弱体化、北部辺境軍の移動の不便さを理由にした派兵遅延偽装、そして、北部古代文献の流出工作による連盟政府内分断。

 どれも計画的で素晴らしいものでした。現にすべてうまくいき、あなたはこうして駒を進めている。

 しかし、のんびりしているうちにアルバトロス・オセアノユニオン、それどころか友学連などと言う学生運動あがりにすら先を越されてしまいましたね。

 確かに策士ではありますが、些か時間をかけすぎですよ。

 しかし、アルバトロス・オセアノユニオンは素早かった。瞬きもままならない速さで独立をした。鮮やか過ぎて私も思わずうなってしまいました。

 さて、その差を生んだユニオンとこの北国の違いは何だとお考えになりますか?」


 カルルは拳を握りしめ、ふるふると震えている。


「何が違うというのだ? ここにはユニオンに勝るとも劣らぬ広大な土地と友学連に勝る軍事力がある。

 そして、資源と新たなる武器、民は強く賢く、堅実で絆が固い。これ以上に何を不自由しようというのか?」


「広大な土地、強い結束、すさまじい軍事力、実に素晴らしいですね。

 ですが、それはただ素晴らしいだけなのですよ。光は強くなれば影が長くなります。

 カルル総統、あなたの御威光はどこまでも届くでしょう。そして、それが作りだす影もどこまでも伸びていきます。

 しばしば、富とはその影の中にあるものとして扱われます。ですが、それは誰もが求めるものなのです。表では過剰な富を批判して、裏では強欲に誰よりもそれを求める。何と二律背反な物でしょうか。

 金持ち喧嘩せず、と言われますがその金持ちが金持ちたるには必ず貧困が生まれる必要があります。

 それはやがて葛藤を生み出して、亡国の足音となるのです」


「それはどこでも同じではないか。貴様は私の国もいずれ滅びると言いたいのか?」


「恒久的な成長を期待せずに滅びの未来を想像するような国に人は寄り付きませんよ。もちろん私たちのような存在もです。富裕層を否定はしません。

 ですが、貧困も芳しくありません。葛藤は生まれるべくして生まれ、必ずそこにはあるのです。

 そして恒久的な成長というのは葛藤を抑え込むのではなく、コントロールしてこそありえます。

 誰もやりたがりませんが誰かがやらなくてはいけない、誰もが忌み嫌いながら誰もが求める、その素晴らしくない仕事。その“素晴らしくない部分”に踏み込める卓越した駆け引きの技術を持つ、金銭を回す事に特化した存在がいないではないですか。

 ユニオンにはそれが上手な海の覇者がいますね。故に物事を素早く動かせたのですよ」


 カルルは考え込むように口を押えた。視線が左右に動くと、「まさか、商人とでもいいたいのか?」と言った。それにレアがにっこりと頷くと、カルルは吐き捨てるように下を向いた。


「貴様は抜け目ない奴だな。確かに我々には戦いにしろ政治にしろ、大きな後ろ盾となる商会はない。

 だが、我々がやがて築く国家にそれは必要がない。無駄に派手な看板も過剰な市場も存在しない。

 さては、早くも戦争の匂いを嗅ぎつけて近づいてきたな? 新しい時代の戦争は血と鉄と硝煙の匂いしかしない。これまでもこれからも金の匂いなど一切しないところだ」


「なるほど、硝煙の匂いですか」


 レアは考え込むように腕を組んだ。


「そうですね。難しい話になるのは私も好きではありません。具体的な話と行きましょうか。

 もちろん商談のごく一部ですが。先ほど基地内で様々な新兵器を見させていただきました。

 あの黒光りした鉄塊が火を噴くところを見たわけではないですが、恐ろしいものだと一目でわかりましたよ。

 どうやら火薬や鉄が多く必要な物の様ですね。作り方は知りませんが、優秀な錬金術師たちは煙の少ない不思議な火薬をたくさんお作りになっているそうですね?

 ですが、鉄はまだしも、北部は火薬の原料の硝石が多くないかと存じております。家々の床を剥がすなど前時代的な回収方法でどれほど持つでしょうか」

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