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ノルデンヴィズ南部戦線 第十三話

「カルル総統、客人が見えております。夜ですが、至急お会いしたいと申しております」


「今日は客が多いな。誰だ?」


 カルルはモンタンに耳打ちをされると、眉間に皺を寄せた。


「なるほど、些か厄介なのが来たな。しかし、相手が相手だ。遇うわけにはいかない。この男は目を離すと逃げ出すだろう。そういうわけにはいかない。この場で話す。すぐ通せ」


 モンタンは掌を前に向けて敬礼をするとテントの外へと消えようとした。


「おい、待て! モンタン、なんでお前がここにいるんだよ?」


 俺は思わず呼び止めたが、モンタンは振り向くそぶりすら見せずテントを出て行こうとしている。


「おい、お前だよ! 今テントから出て行こうとしてるやつ! なんだ? じゃあ、モンタンでなければ、モットラか? とにかくお前だ! なんであんたがここにいるんだ!?」


 無理やり呼び止めると、モンタンによく似た男は顎を下げたまま首だけをまげてこちらを見た。


「私はモンタンではありません。モットラでもありません。ムーバリ・ヒュランデルと申します。カルル総統閣下の軍で上佐としての役職を与えられています」


 モンタンはそれ以上言わせるなとでも言うように俺を睨みつけ牽制している。


「カルル総統、あなたに魔力雷管式銃をもたらしたのはコイツだな?」


 鼓動に遅れて息が上がり、肩を揺らしてカルルに怒鳴るように尋ねた。すると彼は驚いたようになった。


「よくわかったな。そうだ。彼が持ち込んでくれたそれを基に様々な武器を開発した。

 もはやユニオンの空を飛ぶあれですら脅威ではない。これまでよりも高くそして遠く砲弾を放てる。魔法だけしか届かなかった距離に、あわよくばそれ以上の距離に砲弾を飛ばせるのだ。

 それも魔法使いでない者にすらそれを可能にした」と上機嫌に口角を上げた。


「わかってないと思うが、その魔力雷管式銃はエルフの、ルーア共和国の技術だ。それがどういう意味か分かってるのか? モンタン、いや、ムーバリはスパイだ!

 それも共和国だけじゃない。連盟政府にもだ。どこに属しているかもわからないような何重ものな!」


 だが、カルルはさして驚いた様子を見せない。他の指揮官はそれが少しばかり気になるのか、方眉を上げたり、腕組んだりして様子を窺っている。


「そうか。そうなのか? ムーバリ上佐」


 ムーバリは前を向いたままむすっと無言を貫いている。


「おい、だんまりかよ。じゃあ聞くが、あの槍は、ブルゼイ・ストリカザはどうした?」


 ブルゼイ・ストリカザの名前が出た瞬間、これまで冷静だったカルルも指揮官たちも一斉に身を乗り出して首ごと俺の顔へ向いた。

 その視線には先ほどの怒りといった牙を向けるような負の感情ではなく、額に汗を光らせる者がいたり、わずかばかりに口を開けたり、明らかに焦りと動揺が浮かび上がっている。

 ブルゼイ・ストリカザは最高機密のようだ。思いがけない一言で流れをつかめた俺はさらに続けた。


「ユニオンでお前が持ち逃げした時、確か誰かのところに持っていくって言ってたな? あれはカルル総統のことだったのか。スヴェンニーの失われた秘技のすべてが結集したあの槍の材料解析は順調か?」


 空気が俺を中心にしてさらに張り詰める。誰も何も言わずに、固唾をのんでムーバリを見つめた。

 しばらく沈黙すると彼はいよいよ諦めたのか、仕方なさそうにため息をつくと首を左右に振った。


「いまさら隠し立てしても仕方ありませんね。総統閣下もお気づきではなかったのではないですか?

 この男のおっしゃる通り、私はスパイです。共和国、連盟政府、その他の。モンタンと言う名前は共和国にいた際に名乗っていたものです。

 モットラとは連盟政府での名前。諜報部員とは往々にしてそう言うものでしょう。純粋に一か所に仕えていては真っ当な情報など得られません。白アリが喰うのは木であって、相手の大黒柱だけではない。他者の秘密を食い散らかす者が国家に忠義を誓うなど稀有なもの。

 忠義など光の如ききれいごとなど一筋も差さない無明の闇を這いずり回るのが私たち諜報部員と言う物です」


 モンタンは眉色一つ声色一つ変えずにそう言い放った。だが、それには俺だけではなく指揮官たちもモンタンに向けても険しい視線になった。総統閣下を守るように体を机の上に乗り出しモンタンに向けている。だが、カルルは首を左右に動かしその様子を見ると、右手を小さく上げた。


「やはりな。見たこともない強力な武器を持って現れた時点でまともではないことなど把握していた。槍に関しても、人の手には余るほど危険なものにもかかわらず我々に提供した。

 それによって大いに進歩が見られたのも事実。貢献度の大きさのみで敵味方を判断するのは危険だ。だが、もたらしたそれはあまりにも大きい。

 もし、その見えない敵に何か指示を受けているのなら、好きに動くといい。だが、殺害や破壊行為をしたときはしかるべき処置をとる。他と同じに様にな。

 それからこちら側のスパイとしても動いてもらおう。これまでの策は成ったのだから。後はやることなど単純だ。お前の話はもういい。そんなことより客人を呼びたまえ」


 モンタンは表情を変えずに敬礼をしてさっさとテントを出て行ってしまった。

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