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紅袂の剣騎士団 最終話

 それから毎日のように共和国は飛行船を飛ばし、今日もマルタンの上空をふわりふわりと進んでいる。

 飛行船は長距離飛行が可能でグラントルアから飛ばし、三日ほどユニオンに停泊し飛行を続け、再びグラントルアへ戻って行くというのを繰り返していた。

 飛行に際しては基地がグラントルア郊外のあの基地なので共和国西部での地震や地形の隆起の影響はないようだ。

 飛行船はそこまで高高度を飛行できるわけではないが、魔法もある程度クラスが高くないと攻撃が届けられない。おまけに相手は禁忌を破った化け物。何をされるかわからないと連盟政府はしり込みしている様子だった。


 亡命政府も飛行船に現状で対抗しうる飛行機を飛ばそうという気配はない。飛ばせる人材もない上に、おそらく貴重なその一機を失うわけにいかないのだろう。

 一方のユニオン側はルカスの指示で飛行機を偵察以外で飛ばさないようにしている。

 偵察機を一度見たが、音を除けば驚くほど空の色に擬態化され、地上からはほとんど見えないのだ。どうやっているのかバスコに尋ねたが、ひたすらにやにやするだけで教えてくれなかった。

 偵察飛行は共和国の飛行船が飛んでいるタイミングで行い、飛行船がその爆音をまき散らしているかのように装っている。心理的効果を上げるためだろう。

 そのようなややユニオンが押し気味なにらみ合いが続いていた。



「ルカスさん、これからどうするのですか?」


 組んだ腕から手を伸ばし、顎を触りながら遠くを見ている。前線にほど近いところに作られた即席飛行場の管制塔は見晴らしがよく、遠くにはマルタンの街が小さく見えている。


「どうしたものか。現時点では攻め込まれてはいない。北部の連中が来る前までに策を練らなければな。ビョルトゥンとかウォルヘナルズとか言う豪傑たちは、魔石機関車のような巨大なトナカイを乗りまわしながらどれだけ魔法を撃ち込まれても突っ込んでくるらしい。来たら終わりだな! ふははは!」


 良く晴れた空を見るべく、窓枠に近づき手を置いた。


「敗者は目的無き戦いをするっていいますよ? なんだか余裕があるみたいですが、本当に大丈夫ですか?」


 ルカスの相変わらずの豪快さに少々不安を覚え尋ねた。


「うむ、どうもな……。負ける気がせんのだ。あまりジンクスなどは信じたくないが、戦いは始まる前に勝利者が決まっているというではないか。勝つ必要はないのだが、負ける気もしない。困ったものだ! ふははは!」


 声高らかに笑った。いつものことだ。この男、一度は必ずふざけたことを言うのだ。この後に態度を一変させて真面目なことを言うだろう。


 思った通り、一度オホンと咳き込んだ。そして、「冷静に言おう。連盟側は補給がおそらく貧弱だ。商会の移動魔法も使わず、馬と徒歩であの大軍を維持するのは辛いはずだ。戦わずとも人は腹が減る。特に今年は冬に向けて蓄えなければいけないはずだ。備蓄に回さずに持ってきた少ない食料が無くなれば引くと思うぞ」と言った。

 おもむろに右眉を弄りだすと「それか、略奪か」とニヤリと笑った。


「無関係な民衆への略奪を止める大義名分で逆に攻め込み、マルタンの奪還と。偵察機が駐留している軍隊よりも周辺地域を飛んでいるのはそういうことだったんですか」


 現時点で連盟政府軍と戦えば勝利は間違いない。だが、こちらユニオンは侵略ではなく、奪還と防衛を目的としている。膠着状態を打ち破るきっかけがなければただの侵略戦争になってしまうのだ。そうなると、敵側の略奪はこちらの大義名分になるのだ。


「聞こえが悪いな。大義名分のためだけではないぞ。占拠こそされても、そこに住まう者はユニオンの人民であることに変わりはないからな。素振りすらされても許さん。おまけに時期が時期だ。備蓄が必要な今年に略奪されれば普段よりも死活問題になる」


 そういうとルカスは目つきを鋭くして、遠くに小さく臨むマルタンの街を睨みつけた。


「ヘマやアニバルは大丈夫なんですか?」


「おそらく連盟政府の人質にはならんな。亡命政府の指示は表明したが、マルタンの街に軍を迎え入れてはいない。僅かなエルフの上層部たちが支援表明を不服と受け取ったのだろう。

 まぁあの内容じゃぁ仕方あるまい……。亡命政府は認めない、完全な上から目線……。どうやら亡命政府の指導者エルフは馬鹿ではないらしい」


「そんなもんですかね。賢いとなると長引きそうですが……」


 まだ俺たちには余裕がある。このとき、ルカスにもそれがはっきりと顔に見られていた。


 その数日後、連盟政府軍はまたしてもルカスの読み通り引くことになった。

 だが、余裕な表情はルカスにさえも予測できなかった事態によって消え去り、焦りとほんの僅かなある種の期待にとって代わることになった。


 ブルンベイクを含むイングマールの元領主であり、連盟政府に対しては反抗的な勢力の代表格であったあの男。一度無実の罪で追われ逃亡者の身となったあの北国の恐ろしい熊、カルル・ベスパロワが連盟政府を相手に単身、反旗を翻したのである。

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