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紅袂の剣騎士団 第二十五話

“叛乱軍は連盟政府の土地を不当に乗っ取り、中枢は私腹を肥やすためにそこに住まう民たちから搾取を繰り返している。

 その暴虐の風雨にさらされながらも連盟政府の揺るがぬ信念に共鳴し立ち上がったルーアの民の武人の心は賞賛に値する。

 和平交渉へのたゆまぬ努力を続けやがて手を取り合う未来を渇望するルーアの心意気に免じ、連盟政府内の聖なる大地を踏みしめることを赦し、叛乱軍を撃ち滅ぼす大義を与える。

 連盟政府に付き従い青銅の門を開き、イスペイネの哀れな民衆たちともにを開放しようではないか。

 これは正義と融和を勝ち取るための戦いである。連盟政府に付き従い戦いに従事した者はみな等しくエリュシオンに導かれるだろう。

 叛乱軍どもは真鍮の玉と共に九昼夜落ち続けたのち霧に幽閉されるだろう。

 やがて勝利の女神は必ずや連盟政府とそれに付き従ったルーアに微笑むだろう”



 どうやら叛乱軍は冥界のさらに下に落とされるらしい。


 臨時国境線沿いの北側の一部には、マルタンを挟まない連盟政府との国境が数キロほどある。それ以外の地域はマルタンを介している。

 ルカスの言った通り、亡命政府の支援を表向きにしてユニオンの鎮圧を目的としていたようで、連盟政府の主力はそこに集められていた。連盟政府との直接対峙の場所であることはユニオンにとっても同様なので、同国主力もそこに集まっている。


 支援表明以降、そこにいるユニオン軍に向かって声明文が読み上げられているようになった。

 連盟政府側が音声魔石を使った拡声器のようなもので発表した声明文は、何やら、あの女神があくびでもしそうなものだ。

 宗教的な、ギリシア神話的なものが強い声明文は果たしてユニオンには通用するのだろうか。

 少なくともユニオンでは、宗教での支配の時代は完全に終わりをつげ、経済による支配となっている。禁忌だろうが容赦なく踏み荒らす程度のものになっているそれは心には響かないだろう。


 元よりこの世界にとっても魔法は奇跡であったが、目に見えて存在し発展していったがために、奇跡を必要とする宗教の概念が強くない。商会の台頭こそその象徴である。

 しかし、連盟政府はまとめあげるための仮想敵と双璧を成す宗教の意味合いを強めたかった。

 そこで、かつては存在した奇跡の中のさらなる奇跡である勇者に宗教をけん引させていた。そのおかげでサント・プラントンを始めとした中央寄りの地域では宗教として成り立っていた。

 しかし、勇者たちは富や名声を無条件で手に入れられる中央に集中したために、ユニオンや北部辺境ではあまり意味をなしていなかったのだ。その立場と力を与えたのは女神と言う存在だったが、彼女自身の手によって忘れ去られ、今では商会の与えた称号と言うことになっている。

 僅かばかりにも残っていた奇跡の中の奇跡もなくなり、もはや形骸化もいいところ。


 そのプロパガンダ放送は国境沿いに限ったことだったが、ユニオン全土に広く知れ渡っていた。

 ユニオン政治中枢、軍中枢だけでなく、一般市民にも広まるように、飛行機もキューディラジオもない連盟政府はハトを使ってそのビラをユニオンの主要都市へとばらまいたのだ。

 いったいどれほどの鳥が放たれたのだろうか、ヒッチ〇ックのような光景が広がった後、街中はハトの糞だらけになった。彼らのまいたビラの上にも糞をして、その白と黒の消化物で汚れたビラを拾った人はごく少数だっただろう。

 そのおかげで戦意の低下には一役買ったかもしれない。



 それはさておき――いや関係があるかもしれないが――、声明文で使用された言い回しは非常に不愉快に感じたのである。

 なぜなら帝政ルーアとルーア共和国という国を混同させるかのようにルーアとしか言わないのだ。

 おそらく、国名すら知らないまだ無知な国民を惑わせるためなのだろう。敵対していたはずのエルフの国が連盟政府内の叛乱を抑えるために付き従ってくれたと刷り込むためだ。

 そして、付き従う、ということはあくまで連盟政府の方が立場は上であるとしたかったのだろう。

 加えて亡命政府を認めたとは一言も書いていない。帝政でもなければ亡命政府ということすら口に出さないのは、和平交渉中の共和国への顔色を窺ったともとれる。


 宣言直後には国境一帯に、まるで脅すかのようにずらりと軍隊を並べ始め、降伏せよ、と拡声器で言い続けていた。対するユニオンも亡命政府が勝手に引いた国境線沿いに兵士を並べていた。両軍はマルタンを挟み込むようににらみ合いが始まったのだ。

 だが、連盟政府の支援表明を聞いた共和国は、もうすでに準備してあったかのように飛行船を飛ばし始めた。それを見た連盟政府の兵士たちは初めて見る化け物に恐れおののき、中には逃げ出そうとする者もいた。

 それにより、繰り返される宣言の読み上げと降伏勧告がしばしば止まるようになったのだ。

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