紅袂の剣騎士団 第二十四話
陽が傾くころには、以前の階段よりも具体的な協力関係が結ばれてしまったのだ。俺はその様子を、泡を食ってみていることしかできなかった。
この男、ルカス・ブエナフエンテは末恐ろしい。ただ口が達者なだけではない。それに伴う実力も持ち合わせていたのだ。もしかするとエスパシオやカリストの比ではないのかもしれない。
もし以前のユニオンと共和国との話し合いにおいてルカスが指揮を執っていたら、果たしてどうなっていただろうか。
俺はそれを考えると、会談が催されたときに狂奔していた自分がみじめに感じ、死傷者が出なかったとはいえ飛行船撃墜という危険な事態が起こらなくて済んだではないだろうかと肩が落ちるようだった。いや、あまりにもスムーズにいきすぎて別の問題が起きていたかもしれない、と自らに言い聞かせて落ち着かせた。
だが、もっと最悪なのは、カリストの復帰を遅らせたほうが今後の展開を効率的に進められるのではないだろうか、と俺まで頭の中をよぎってしまったのだ。こうなってしまった、このようにうまくいってしまった以上、それについては否定はしない。そして心の中に居座っていることだけ認めて、無視しておこう。
翌日には共和国各々四省長官たちとのホットラインのようなキューディラがルカスのオフィスには配置された。そして、カルデロン本宅にあった俺の事務スペースもブエナフエンテ邸の一室へと引っ越しになった。(移動魔法使えるんだから自分でやれ、とのこと)。
一角に過ぎなかった俺のスペースがついに部屋へと昇格してしまった。これではユニオンに取り込まれたも等しい。だが意地でも寝泊まりはカルデロン別宅であることを死守した。
ルカスが共和国との緊急密談の際に、勝手に条件として挙げた関税優遇や検疫簡略化に対してユニオン民議会から生産物・生産者の利益保護について若干の反発は起きたものの、税金優遇措置をはかると表明し交易の活性化に結び付けた。
付け焼刃なような、その場しのぎのような言い逃れではないのはすぐにわかった。ルカスはいったいいつからこうすることを考えていたのだろうか。
カリストは順調に回復の兆しを見せ始め、意識もはっきりしたものになっていった。まだ朦朧としている様子ではあるが、受け答えにはゆっくりだがはっきりと答えるようになっていった。
その裏で唯一犠牲になってしまったエスパシオの密葬が行われた。
ティルナはテロ以来、めっきりと口数は減った。無駄に元気な動きもなくなり、自信なさげな素振りさえ見せなくなった。彼女の見た目は何も変わっていない。だが、目つきは鋭くなり、何を見るにしてもまるで睨みつけるようになった。
こうまで人を変えてしまうのか。俺はティルナへの同情よりも、エスパシオの死が怖くなってしまった。商会の業務は卒なくこなしている。あまり心配するのも彼女に失礼だろう。
葬儀終了後、共和国四省長官たちにのみ、直接エスパシオの死が伝えられた。それを仰せつかったのは俺だ。
これを報告することでどうなるのか。それも怖かった。だが考えないようにした。
ルカスと四省長官たちの密談から特に大きな事件事故は起こることなく、二週間が経った。
ルカスが言った通りに連盟政府は帝政ルーア亡命政府への支援を表明したのだ。