紅袂の剣騎士団 第二十三話
いきなりポータルをグラントルアの評議会議事堂の円卓の長議室に開いて、ルカスを送り付けるのはさすがにまずかろう。ひとまずはギンスブルグ家とマゼルソンへ連絡を取り、長官たちとの面会を申し込んだ。
式典のテロ発生以降、発生したという報告以外は疎かになっていた。疎遠になっていたところに突如ユニオンの代表者がやってくるとなると四省長議が至急開かれることになった。そこで長官たちは、いよいよテロの責任追及かとざわついた。
そうこうしている間に、待たされたルカスは苛ついているのは明らかだったので、俺はユリナにルカスから聞いた話をあらかじめ話すことにした。すると不承不承ではあるが会うことを了承してくれた。
だが、同時に条件も付けてきた。長議室ではなく、より狭い部屋にポータルを開き、共和国側は見張りを付けることを要求してきたのだ。
厄介な条件を付けてきたものだと、何か言われるのではないかと思いつつルカスに確認をとると、予想に反して二つ返事で了承した。話す機会さえ作れば、どうにでもできるそうだ。
それにとどまらず、そのほうが機密性をあげられるので、こちらからお願いしてでもそうして欲しいとまで言ったのだ。彼は弁舌も非常に立つ。俺自身、失敗することはないだろうと感じた。
許可が下りたのでポータルを開き、ルカスを連れて会議室に導いた。
長官たちは現れたルカスが護衛もつけずに現れたことと、そして自信気だが友好的な態度で唐突にエルフの言語で流暢に話始めたことに驚かされていた。
最難関になるのではないかと思っていたマゼルソンはコーヒーですでに落とされており、ユリナの洗礼のような下ネタは華麗に返し、最後まで怪しんでいたシロークには娘の子育てにアドバイスをすることで、三人にあっという間に接近した。
俺がぼんやりとしている間に場所は代えられることになり、ルカスは評議会議事堂の円卓の会議室に当たり前のように入り、現状とこれから起こるであろう事態を伝えた。だが、連盟政府が亡命政府への支援する可能性については伝えなかった。
そしてその日のうちに亡命政府への対応について、関税優遇や検疫簡略化による交易活発化を引き合いに協力を取り付けたのである。
さらに今後もし、連盟政府が亡命政府への協力を表明した場合、対応を変更することも確約させていた。ここで、和平交渉中止ではなく“対応の変更”として選択への自由な幅を持たせるあたりに手腕を感じさせられる。これがほんの二、三時間のうちに済まされた。しかもそのうちの半分は長官たちの呼ぶかどうかの話し合いに費やされた時間だったのだ。
昼過ぎには終了した会談の後、ユニオンに戻ってから支援表明のことを伝えたほうがいいのでは、と提案すると、それは必要ない、とした。国境付近に全勢力を集結させるために移動日数を考えると、おそらく表明するのは二週間後だとルカスは予想し、二週間までに共和国が気付かないはずがないそうだ。