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紅袂の剣騎士団 第十五話

「それを信じると思うか? これまで俺たちに何をしてきた?」


 爆破? クロエの言葉に違和感を覚えた。まさか。俺はそれ以上余計なことは言わずにクロエに尋ね返した。


「信じるかどうかではなく、真実です。認めたくなければ目を逸らせばよろしいでしょう。確かに、一方的な分離独立宣言は私たちには不愉快です。

 ですが、このような直接なやり方をして叛乱軍に過度の刺激を与えると思いますか? 長い歴史の中でそのようなことするのは愚か者だけだと知っています。

 連盟政府は無関係である一方、共和国側の代表団は式典を欠席。そのおかげで幸いにも爆発物の目の前から逃げることができた」


 クロエはまるですべて知っているかのように淡々と話しているが、魔法による攻撃ではなく爆破であったなど話の内容が間違っている箇所がいくつかある。違和感を覚えたのは俺の気のせいではないようだ。どこかで生じた情報伝達の齟齬だろう。

 実際には飛行機からの魔法攻撃により、エスパシオは死亡、カリストは重体。クロエの知っている情報は正確ではないようだ。


 ご丁寧にこちらから訂正してあげる必要はない。それどころかこれは使える。テロには爆発物が使用され、エスパシオはまだ死んではいないことにして、このまま嘘を交えて話を合わせよう。


 悟られまいと眉間にしわを寄せ表情を隠し、クロエの言葉をさらに待った。


「この間、ユニオンと共和国は話し合いの場を設けてうまくいったそうではないですか。明言はされていないですが事実上の和平の成立みたいなものでしょう」


「そうだな。ユニオンと共和国は会談をしてお互いに妥協点を見出して円満に終了した。それに、この間のテロも実行犯が愚か者のおかげで、無傷ではないが怪我程度で済んだ。しかし、会談と爆破テロに関係はあるのか? 確かに混乱期の現時点で完全に無関係とはいえないが」


「やはり、エルフもスヴェンニーの肩を持つイスペイネ人もなんとも不愉快極まりない連中ですね。連盟政府内の混乱に乗じて独立して、さらに横から和平の機会を横取りとは。これだからスヴェンニーが関わると……」


 会談が成功したことがよほど不愉快なのだろう。視線を右下の方へ落したクロエは、眉間にしわを寄せてぶつぶつと何かを呟いている。そして口元を手で押さえ無言になり、しばらくそうしたのち、視線を先に俺の方へと戻すと顔を上げた。


「いえ、いずれそれは私たち連盟政府の足掛かりになるかもしれませんね。この際は置いておきましょう。

 少し話は戻りますが、共和国内で和平に反対していたのは強硬派、帝政思想者(ルアニスト)だそうですね。その思想の筆頭の孫がいるそうですね。小さな女の子で、名前はウリヤでしたっけ」


「随分詳しいな」 孫ではない。それに帝政思想者(ルアニスト)などという言葉は初めて聞いたが。


「ええ、ご存じの通り諜報部門ですから。その帝政思想者(ルアニスト)連中は連盟政府より先んじて手を取ったユニオンをどう思うでしょうね? 和平派に屈し諦め戦うことを抑えていたはずなのに、突如連盟から反旗を翻す様に独立した、いえ叛乱を起こしたユニオンをどう思うでしょうか? まるで横恋慕されたような気分でしょうね」とクロエは理解を促す様に尋ねてきた。


「テロは血の気の多い帝政思想者(ルアニスト)の仕業と言いたいわけか? よかったな。ご希望通り、犯行声明がとっくに出されていて、帝政思想(ルアニサム)だというとこともわかっている。そのウリヤを組織の中心に添えていることもな」


「それはもうこちらも把握しております。それでも私たち連盟政府を疑いますか?」


「疑わないという選択肢を選ぶにはまだ早い。可能性が完全に否定されたわけじゃないからな。ウリヤに俺は一度会ったことがある。彼女はまだ幼気な子どもだ。思想どうこうできるほどではない。間違いなく協力者がいる。

 だが、それ以外に誰かいるとしてもだ。共和国とユニオンは確かに手を取り合ったが、まだ民間人はおろか政府関係者もホイホイ互いに行き来するほどじゃあない。エルフがユニオンで立ち入れるのは港の埠頭までだ。

 移動魔法が使えるのはユリナだけで、海路も両国の監視艇が半ば密航者狩りのようなことをしている。共和国のエルフが密入国するとは思えない。連盟政府やユニオン内にかつての帝政思想(ルアニサム)を知る難民エルフや、モンタンのようなその二世、三世がいるかもしれない。

 和平交渉開始後に情報が広まりつつあるが、それでも未だに連盟政府市民どころかあちこちの自治領主ですらエルフに対して偏った情報しか知らない。

 その限られた中でさらに少ない情報しか得られない難民エルフたちがウリヤの存在、帝政の終焉や和平派交渉の進捗みたいな具体的なことを知り得ないはずだ。

 だから、正確でタイムリーな情報を与えている協力者がいて、それが連盟政府の人間でないと否定できない。特にあんたみたいな色々よく知ってる諜報部員は怪しすぎるんだ」


 俺がそう答えると、クロエはまたしても微笑んだ。


「それは分かりませんよ? ウリヤが完全に思想を持っていないという、あなたのそれは確信ではなく、ただの希望的観測としか思えません。ですが、仮に弁舌がどれほど立とうとも、できることは限られているでしょうね。

 おっしゃる通り、協力者の存在が必要になるでしょう。ですが、それはいったい誰でしょうね? ウリヤに代わって人もエルフも動かせる強大な人望と実力を兼ねそろえた存在とはなんでしょう?」

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