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紅袂の剣騎士団 第十話

 俺の提案にルカスは口を曲げると、「そうもいかないんだ。君の回復魔法は記憶までなくなるそうだな。それは困るのだ。これまでも経験があるのではないか? 死者の体に刻まれた記憶と負傷者の証言が最も貴重なことは」と右眉を弄りだした。


 ルカスのその言葉にわずかばかりの違和感を覚えた。何もその一言だけで覚えたわけではない。安全を確保するためと言い、どこで治療を受けているのかを教えようともしないのだ。何かどこかカリストの治療から意図的に遠ざけられているような。話をして行くうちに積み重なり、大きくなっていく。


 だが、とにかく今はそれを深追いしてルカスを疑るわけにはいかない。俺は口をつぐんで腕を組んだ。

それからルカスは目を合わせることなく話をつづけた。


「自治と言う形で軍備は任せておいたが、やはりもともと友学連なだけあって手薄だったな。それにしてもマルタン駐留基地建設が遅れたのもあだになったな。サント・プラントンに近いからと言ってストスリアに偏重しすぎた。早めに運用にこぎつけたが、些かやり過ぎたのかストスリア一帯の市民の間で、ユニオンの基地建設をけん制するために連盟政府が大規模軍事演習をするとかいううわさも流れている」


 バスコは車いすのひじ掛けに両肘を置くと、「だが、そのおかげでほとんどの飛行機を守ることができたァ。しかし、マルタンに置いてあった高性能の試作機が接収と称して盗まれたァ、壊すだけでなく、盗むとはなァ、クソッ、クソ、クソが……」と爪を噛みながらぶつぶつと言い始めた。


「なぜ試作機を建設途中の飛行場に置いたのか……。まったく理解に苦しむ。高性能なのはわかったが問題ないのか? 共和国に技術供与はしてしまったが、あまり国外に飛行機の技術を出したくはない」


「高性能、それに反して、いやそれ故に操縦は非常に簡単。羽ばたいたり浮遊したりではなく、風の中を滑るという正しく飛ぶイメージさえあれば飛ばせる。だァが、途轍もない魔力消費をするゥ。並の魔石では発進はおろか、起動すらできないィ。すぐには飛ばせまい。だが、クソ……。あれだけ苦労したというのに……。クソ……」


 バスコはそう言うと爪を噛みちぎった。右手の中指が血で真っ赤になっている。痛々しさに思わず目を背けた。


 ルカスもその仕草に口を曲げている。しかし、すぐに気を取り直し、「ヘマ失踪と同時にアニバルと、もう一人いただろう。それは例の“金髪の女児”だそうだ」と話題を変えた。


 金髪の女児と言われてすぐに思いつく人物を最初に見たのは、共和国でのカスト・マゼルソンの葬儀の時だ。

 綺麗な金髪のエルフの女の子で、黄色の石の付いた大きなリボンをよく覚えている。犯行声明にも出てきた、ウリヤ・メレデントだ。


「まさか、その金髪の幼女っていうのは」


 尋ねるのは野暮だが、あえて俺はルカスに尋ねた。


「そう、ウリヤだ。ヘマからはウリヤと言う名前しか聞いていなかったが、ウリヤ・メレデントで間違いないだろう。共和国前政省長官にして帝政思想(ルアニサム)の筆頭、アラード・メレデントの孫娘だ。まさか、こうなるとはな……」とルカスは額を抑えた。


 鼻から息を出すと、「一昨年の沖での爆発の調査中にウリヤを救出した。エルフなので当然大騒ぎになった。だがまだ子どもということでヘマが預かることにした。捜査したのは、バスコ、貴様だな?」とバスコを睨みつけた。


 睨みつけられたバスコははったと顔を起こして口角を僅かに上げた。


「そうだがァ、私はそのとき海で拾った他の物に興味があったァ。爆破した船の調査に当たり、蒸気エンジンとガソリンエンジンの設計図を拾った。ヘマの引き取った小娘がエルフだということは黙っておいてやるから、私の拾った設計図についても黙ってろとなァ。エスパシオがいなくなったからァこんなこと言えるんだがなァ」と笑っているのか泣いているのかわからない表情で肩を揺らし始めた。


「おかげさまで悩み続けていた飛行機のエンジン部の問題が解決できたァ。さらにヒューリライネン法のおかげでより良いものができた。それにできた物はエスパシオもお気に召してたなァ。大頭目に還元したのだァ。冥土の土産としては問題なかろうゥ。ヒヒーッヒ」と今度は笑った。


「口を慎めよ、バスコ。結果良ければすべてよし、と言うのは否定しないが、死者を愚弄するな」

失礼な態度にルカスはやや語気を強めてバスコを嗜めた。


「これは失れぃィ……。だァが」と両眉をあげると「ガキはどうでもよかった。最初は。最初はな」と続けた。


「何かあるのか?」


「間違いがあるぞ。ウリヤはメレデントの孫じゃァない」


 それを聞いたルカスはバスコに詰め寄り、椅子に覆いかぶさるようになった。


「どういうことだ!? 血がつながってないとなるとまたややこしくなるぞ!?」と声を荒げるルカスをバスコは見上げた。


「そんなことじゃァない。繋がっていないィ? 違うなァ。孫より濃いんだよ」と大きく肩を揺らして笑い始めた。


「ウリヤはアラード・メレデントの娘だァ」

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