表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

368/1860

やがて消ゆもの 第三話

 港の近くのまだ敷かれたばかりで雑草一つ生えていない線路沿いを歩いていると、白い小石と若い色をした枕木を軋ませて機関車が小石を躍らせて迫ってきた。

 黒光りするブルゼニウム火室機関車は、鼻先にウロボロスに囲まれたアホウドリのエンブレムを付けている。遠くに見えているそれはわずかな蒸気を吐き出し力強く走って来た。

 見てくれは上野で見たことのある機関車と比べて小さく、煙突も過剰な水蒸気を排出する程度の小さなものしかない。水は重くなるので予備程度しか積んでおらず、氷雪系と炎熱系の魔石で空気中から水分を取り出しているらしい。湿度の高いユニオンならではだそうだ。


 汽車を見に来たのか、先客の子どもたちの横で立ち止まってぼんやり見ていると、あっという間に目の前を通り過ぎていった。そして少し先にあるブルゼニウムダイナモで発電された電気を受けた信号が赤に変わると、機関車は車輪に悲鳴を上げさせてゆっくりと停車し蒸気を吐き出した。


 機関室の車掌が何かを引っ張ると、機関車が牽引していた三台ほどの荷台がゆっくり横へ倒れていった。荷台からはきらきらと色とりどりの魔石がなだれ出て、真横につけられた大きなホッパーに消えていった。魔石はこれから氷雪系、炎熱系、雷鳴系とそれ以外に分別され、さらに大きさ、品質でも選別された後コンベアーを流れていく。

 機関車は今日も魔石を生産地から大量に運んできている。



 荷台が倒れ切りすべての中身を下ろして止まると、傍にいた子どもたちが歓声を上げた。ぼんやり見ていた俺の腰のあたりをたくさんの小さな頭がそこのけそこのけと通り過ぎていく。こぼれた砂粒のような魔石を拾おうと集まっていたのだ。

 子どもたちはどろんこだが痩せた感じはなく、服もボロボロではない。どうやら彼らは生活費を稼ぐために拾いに来た貧困層の子どもたちではなさそうだ。

 こぼれた魔石の中に少し大きめの物を見つけたのか、ハンチングを被った男の子が他の子を集め自慢している。


 独立後は失業者も減ったらしい。独立していいことばかりではないか。いや、もしかしたら俺がいいことだけを無意識に選んで見ているだけかもしれない。ラド・デル・マルにスラムはまだあるのだから。



 ゴウンゴウンと音を立て回るコンベアーに運ばれていく魔石は、これから市中に出回るか、近くの港から共和国へと旅立つのだろう。

 荷台を戻した蒸気機関車が汽笛を鳴らし前進すると、転車台へと入っていった。陽はもう高いが、まだ午前中だ。もう一往復ほどしてさらに大量に運んでくるのだろう。



 遠くからベルを鳴らす音が聞こえると、その場にいた子どもたちは一斉にそちらへと駆け出していった。近くの学校の生徒のようだ。休み時間だったのだろうか。



 工業化が進んだおかげで魔石の使用量が増加、さらに連盟政府が設けていた生産量制限からも解放されたので生産量も増えた。そのおかげで失業率も低下したのだろう。独立しようともこれまで通り魔石は砂利のように手に入るので、どれほど使用量が増えたところでひっ迫はしない。


 だが、魔石を使った産業の効率化のために、高出力な物を用いるか、高価なブルゼニウムやヒューリライネン法を用いるかで天秤に掛けられ、高品質な、つまり高出力な魔石の価格がブルゼニウムに劣らないほどに高騰してしまったらしい。

 一時、魔力供給源を人にして人件費に回すという対策が普及したが、魔力供給者の力量依存になってしまい、より良い魔力供給者は高給取りとなってしまい最終的にコストは同じくらいかかることに変わりはなかった。そうなると必然的に質ではなく量による効率化を図るところも増え、並みの品質の魔石価格も上昇してしまったのだ。

 共和国への輸出している物は対外的なメンツやこの間の一悶着もあり、品質も価格も変えなかった。そうなると顔色を窺い過ぎだと反発する者や輸出用として過剰に購入して余剰分を国内へ回し内密に使用して摘発される者も出てきてしまったのである。


 結果的に輸出する魔石の価格も上げざるを得なくなってしまったのだ。(ちなみにユニオン内ルードとエケルは調整ののち、若干の変動は見られるものの同価値と決められた)。



 俺は一度だけその旨を伝えに共和国へ赴いたことがある。


 金の切れ目が縁の切れ目。またしても揉めるのかと思ったが、共和国側(特にユリナ)がいきり立つことはなかった。

 西部のウェストル地方各地で温水が噴き出るなど異常事態が起きているらしく、大規模災害につながってはいないようだが対応に追われているらしい。跳躍的に価格を吊り上げたわけでもなく、その慌ただしい事態のおかげで、その時の往復は二、三回で済んだ。


 コンベアーと建物の先にある大型の船舶が汽笛を長く三回鳴らすのを聴くと、俺は街の中心部へ向かう道へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ