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真冬の銀銭花 第八話

 木の影を伝い、悟られないように前進をつづけた。


 銃がどんなものか、しっかりと見たり触ったりしたわけではないのでわからない。かつて学んだ時に、40年前の戦争の時に押収されたものが使われるのを一度だけ見たことがある程度だ。そのときは狙いも悪く、撃った者が怪我をしていた。

 共和国内のおおよその銃は最新式だと聞いている。40年前の骨董品などとは比較にならないほどに照準も改善されているはずだ。迂闊に出ることができない。


 おそらくどこから出てくるかわかっているかのようにこちらに銃口を向けている。どうやら剣はやはり誘導だったようだ。このまま飛び込むのは思うつぼだ。


 マリークにどこかの木の枝を撃ってもらおうか。そうすれば注意を引くことができる。ここまで巻き込んだのだ。一も百も一緒だ。だがマリークはまだ早い。


 足元の少し大きめの平らな石を拾いあげ、収まるか、軽く掌で転がす。できる限り遠くへ投げなければいけない。狙いは離れたところの茂みの隙間だ。冷たい石が掌の中に戻ると強く握りしめて収まる感覚を確かにし、そして振りかぶり暗闇の中から投げた。


 回転しながら石はそこに向かって飛んでいった。そして茂みを揺らすと、ジューリアの警戒する様な視線をそちらに向けさせることができた。しかし振り向いたのは顔だけだ。銃口は相変わらずこちらを向いている。それを逸らすことまではできなかったのだ。

 だが躊躇している暇はない。態勢を整えた女中部隊が追いかけてくるのも時間の問題だ。


 猟犬のように獲物を狙う顔がこちらに戻る前に太い木の影から飛び出し光の中へ真っすぐ向って行くと、冬の原っぱが広がった。

 突撃してくる私にすぐさま反応したジューリアも構え、手元の箱についたハンドルをぐるぐると回し始めた。オンオンと不気味な音を立て、距離を詰めるにつれてその回転は速くなる。


 そしてすぐに回転速度は上がり切ったのか、筒の先が輪になり逆回転をしているように見え始めた。何か来る。何かが飛んでくるのはわかっていた。しかし、その妙な気配に足を止められてしまった。


 警戒に足が止まったその瞬間、軽い音とともに黄色い球体がいくつも飛んできた。音に反応し足を踏み込み、まっすぐ進むのをやめ左に大きく避けた。体のすぐ真横を球体が飛んでいく。通り抜けていくそれに毛が逆立つような感覚を覚える。おそらく雷鳴系の魔法が強く籠められている。聞いた話でしか分からないが、あの銃はイズミが撃たれた銃ではなさそうだ。


 横への回避行動が大きくなり、なかなか前進することができない。しかし、左右に動くとわずかに引き離せる。おそらくあの銃の塊は、軽いと言われている魔法射出式銃を束ねた物であっても金属の筒の数が何十倍もある。力があるジューリアにとってさえも重たいのだろう。私の動きを追いかけるために横に動かすと遅れるようだ。こちらは持ちなれた重い剣だけだ。ならば左右に素早く動けばいい。


 大きく左右に避けるように動くとそれを追いかけるように球体が飛んでくる。重さゆえに照準も下がってきたようだ。そのせいでいつしか地面に球体がぶつかるようになってきた。

 地面に魔法が当たると大きくえぐれるほど弾き飛ばされ砂ぼこりを上げている。射出されているのは魔法だけのはずで、地面が大きく飛ばされて土煙が上がるほどではないはずだ。魔法射出式銃の威力はそこまで高くないと聞いていた。元より当たるつもりはなかったが、これではますます当たるわけにはいかない。


 それに連射されてはなかなか前に近づけない。左右に振るのは良いが、振り過ぎてこちらの体力も切れてしまいそうだ。

 万が一を考慮して、銃の種類が分からない。簡単にも近づけない。


 弾か魔法か、まず何をこちらに向かって撃っているのか、私は避けるとき剣をわざと横に持ち、的を大きく見せた。

 そして右に振りきるために左足で大きく地面を蹴る。その瞬間、剣の切っ先に球体が当たった。


 重たい。そして痺れて手を離してしまいそうだ。だが重く響くだけで金属音はしない。


 私は剣を落としてしまわぬように柄を再び強く握りしめた。あれは魔法射出式銃で、それをまとめて連射しているだけだ。そして高威力。イズミは高威力か弾数かを天秤に掛けなければいけないと言っていた。そして共和国に入ってくる魔石は強いものが少ない。それでこの高威力。ならばおそらく短期決着を睨んでいて数は撃てないはず。


 左右に振り続けて少しずつ詰めていき、ジューリアの鼻先まであと十歩もしないところまで来た。そのときだ。ついに回転は遅くなり止まりはじめたのだ!するとすぐさまジューリアは舌打ちをして手の中の銃の塊を斜め後ろに思い切り放り投げた。ズシリと箱が地面に沈み込み、外れた砲身がガランガランと金属の中空に響くような音を立てた。


 大振りの動きを見せた今が隙だ。今こそが詰めるとき。横に寝かせていた剣を天高く振り上げて、距離を思い切り詰め間合いに踏み込んだ。そして目の前まで一挙に近づき、剣を下ろした。

 もちろん切り落とすつもりはない。だが殺すつもりで行かなければ負けてしまう。このまま隙ができればと振り下ろすように柄に力を籠める。ジュワイユースが空を切るとブゥゥンと鈍い音が引き渡り、ジューリアに襲い掛かる。


 しかし、ジューリアは引く様子もなく、両足をズンと開き両手拳を力強く握りしめた。そして、その鉄球のような両手拳で剣を挟み込むように白刃どりしたのだ。押し負けるか、そう思う間もない刹那に、にらみ合ったジューリアはにたりと笑った。そして、


「あんたの剣、陶器みたいだよ」


 と囁くと、両手拳の位置を僅かにずらし渾身の力を込めた。


 その瞬間、ジュワイユースは柄だけを残して粉々に砕け散ってしまったのだ。

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