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藍色に黄昏るデオドラモミ 第十一話

 それを聞いた俺たちは一斉にティルナの方を見た。


 眉間にしわを寄せながら片眉を上げているアンネリが怒り気味にティルナを睨むと、

「はぁ? 何言ってんのよ。あんたなんかにどうにか……あ……」と途中まで言いかけて両眉を上げてぽかんと口を開いた。


 怪訝な顔をしていたオージーはアンネリの反応のおかしさの何かに気付いたのか、大きく動くと掌を叩いた。


「そうか! 君はカルデロン家の者だな!」と取り乱したかのように体を乗り出した。


 俺はそこまで言われてやっと気が付いた。そうだ。彼女はティルナ。ティルナ・カルデロンだ! 商会と言えばトバイアス・ザカライア商会にばかり目が行きがちになってしまう。

 だがそれがシェア100%と言うわけではない。そこに次ぐ規模の商会が存在する。それこそがカルデロン・デ・コメルティオであり、ティルナはそこの大頭目のエスパシオの妹(正確にははとこ)なのだ。比較される商会の規模が異様に大きすぎるだけで、カルデロン・デ・コメルティオも十分すぎるほど大きいのだ。


 停滞していた空気が流れ出し、ティルナにつられて皆の表情が明るくなっていく。気にも出来なかった外の蝉時雨が窓の外から聞こえてくるような、まだ暑い残暑の風が陽炎と一緒に流れ込んでくるような気がした。


「これはイケるかもしれない!」


 実験がへたくそで書類整理ばかりしていた俺さえも思わず声を上げてしまった。俺は何もできないからこそ、最後までうまくいってほしいと思っていたのかもしれない。こぶしを振り上げた。


 それを見たティルナも「そ、そうです! 私はカルデロン家、トバイアス・ザカライア商会に次ぐ規模の商会であるカルデロン・デ・コメルティオの娘ですよ!」とぐっと握りしめたこぶしを揃って振り上げた。


「やりましょ! 今すぐ! 先生!?」とアンネリがグリューネバルトの方を見た。


 すると彼は大きく頷きゆっくりと椅子から立ち上がった。


「では、道具の手配は君に任せるとしよう」と窓の方へと向かった。そして振り向きながら、


「ありがとう。マリソルに……いや、君は似ていると言われるのは嫌だと言っていたな」と言った。


 今度はティルナに近づき、なんとそっと頭を撫でたのだ。するとティルナは顔を真っ赤にして肩をすぼめながら見たこともないような笑顔になった。そして「これで、やっと、やっと……ユウさんの、みんなの役に立てる……」と囁いた。


「最近、高価な実験器具の見積もり発注が増えて、カルデロンから調達する動きが活発化しているので何かと思いましたよ。こういうことだったんですね! 商会には負けませんから!」とうるんだ瞳でグリューネバルトを見つめた。


 材料の確保ができたことは驚き嬉しいことだが、グリューネバルトの行動に俺とオージーとアンネリの三人はあっけにとられてしまった。


 しかし、そんなことに気をとられてはいけない。それからすぐに動き出し、研究に必要な機材をリストアップした。実験の精度を上げるために高次元式魔力検出装置を何とか手配できないだろうかと再び話題に上ったが、グリューネバルトは無理だろうと言い、代替品で何とかしようということになった。リストの高次元魔力検出装置の欄に横線二本を引いて無しにした。リストアップが終わるとティルナは書類を抱えてすぐに部屋を出て行った。



 ドアが閉まるのを見送ると「なんとか、なりそうだな」とオージーが手のひらに拳を当ててパチンと音を立てた。実験再開の可能性に気合が入っているようだ。


 するとすぐにドアがノックされ、そしてレアが入ってきた。ほぼティルナと入れ替わりでやってきたのだ。


「皆さん、何かありましたか? なんだか、元気を取り戻したように見えますが」


「ああ、カルデロン・デ・コメルティオが資材の調達をしてくれることになったんだ」


 それを聞くと地面に視線を送り親指を口に当てた。「今すれ違ったイスペイネ系の女の子はもしかして……」と独り言ちると「私としたことが……。出遅れましたね」と険しい顔になった。


「どういうこと?」


「資材のことなんですが、本部には内緒で手配してみようかと思いました。ですが、もう解決してしまったようですね」とレアは残念そうに笑った。


「いや、待ってくれ。それはそれでありがたいかもしれない。おそらく抜け漏れは今後発生するだろう」


「それに、取引先をイスペイネ系のメーカー一社だけにするのは、ボクたちだけでなくフロイデンベルクアカデミアにも都合が良くないはずだ。癒着だとかカルデロン寄りのバイアスがかかってるとか、利益相反マネジメント不足を疑われる」とオージーが付け加えた。


「そうですね……でも、うーん……」


「レアの気持ちはわかるよ。でも仕方ないんだ。商売敵であるカルデロン・デ・コメルティオに頼むしかなかったんだ。そういえば、レアはティルナに直接会ってはいないのか。何かとタイミングがズレてたからな。

 さっきの女の子が前に話したティルナ・カルデロン。カルデロン家の頭目の妹だ。そして俺たちの仲間だ。アンヤとシーヴの捜索にかなり協力してくれたんだ」


「そうですか。あの子が……。では、ティルナさんに関しては何も言いません。私たちの商売敵であるのは間違いないですが、それ以前にイズミさんの仲間です。つまり、私個人の仲間でもあるということなのです。ですが、やはり上の指示で動かなければいけない時もあります。極力、私個人では何もしません」

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