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このクズ勇者どもに祝福を! 最終話

「はぁーあ、なんか拍子抜けしちゃったわ。20年ちょい前の魔力消失事件にも意味があったのねって。あたしに対するただの嫌がらせかと思ったわ」と女神は大きく伸びをした。関節からパキパキと音を立てると、眼を潤ませている。


「もうちょっと教えてくださいよ。具体的じゃないからやりづらいです。目的が同じならいいじゃないですか」


「やだ。あんたは余計なこと言うと余計なことするでしょ? キチンと目の前のできることしてちょうだい。まだまだサポートはしてあげるから。そうそう、あたしがシバサキの能力オフにしてもたぶん彼はまだ使えると思うから、気を付けなさいよ。何を上げてるかわからないのも怖いわねー。あたしが上げたやつより高度な移動魔法使えるみたいだし」


 女神たちのふるい分けで残った最後の一人が、この女神にとっては俺で、アフロディーテの方はシバサキということか。半ば対抗馬のような形だろう。


 高度な移動魔法、というのはもしかして行った経験のないところまで行けるものだろうか。共和国長官選挙中にワタベのギンスブルグ家の監禁部屋からの消えっぷりを考えると与えられていてもおかしくない。


「やっぱり移動先に制限がないやつですか? 行ったことが無くてもポータルが開けるとか」


「よくわかったわね。あげたのあたしじゃないからわからないけど、たぶんそれね。靴についた砂浜の粒が入り込むみたいに、どこにでも現れるわよ」


 俺にもくださいよ、とはさすがにがめつくて言えない。だが女神がそうした理由はなんとなくわかる。欲しさよりも恐怖の方が強い。にもかかわらず、


「なんで制限を設けたんですか?」と思わず聞いてしまった。


「わかるでしょ? 怖くない? *いしのなかにいる* とかなりたい?」


 元ネタはともかく、確かに石の中にポータルを開いたらどうなるのだろうか。もしくは地中深くのマグマの中や宇宙空間だとすると……。怖すぎる。

 だがシバサキにそれができるとなるととんでもなく危ないのではないだろうか。怒り狂った勢いで「太陽の表面だー!」とポータルを開かれたら世界が蒸発する。


「それかなりマズくないですか!?」


「どうだかね。シバサキもあたしの手を離れたし、何か起きてもあたしの責任じゃないから知らないわ。でもさぁ、たとえば部下に能力以上の権力あげると思う? 責任取るのは上司なんだから、コントロール不能なものは上げないわよ、あたしならね」


 違う。能力をコントロールできたとしても、使う人の気分次第と言うのが問題なのだ。ちょっと気分を害されたからと言ってフルパワーを使うとも言い切れないのだ。


「シバサキがもともといたのはあんたと同じ世界なんだから、ちょっと考えれば大丈夫でしょ?」


 あっけらかんと言う女神を俺は引きつったまま見つめてしまった。


「ちょっと、大丈夫って言いなさいよ?」


 何も言えなくなってしまった。しかし今のところ世界が滅んだ様子はないので大丈夫、と言うことにしておこう。腕を組んでかくかく頷いた。



 暗闇の中の喫煙所に沈黙が訪れると、ふとあることを思い出した。


 そういえば目の前でタバコを吸う女神の名前は何だったのだろうか。もう『女神さま』で通じるので気にもしていなかった。ここにきてもう一人の女神の名前は分かった。もしかするとこの女神もギリシャ神話の神様ではないだろうか。ふと“ア”で始まる女神を思い浮かべた……がいっぱいいる。

 しかし、エインヘリャルがどうのこうのと誰かが言っていた気がする。つまり北欧神話の可能性もあるのか。するとナントカ神族が、とまた増えていく。ヤニ吸う女神の君の名は。


 まぁ、いずれ分かるだろう。神が誰であれ俺はとにかく和平への道を進めなければ。


 はっきりとは言わなかったが、目指しているところは同じと言った。つまりそれは人間とエルフの調和を目的としているはずだ。おそらくシバサキに力をあげているアフロディーテは別の形で平和をもたらそうとしているのだろう。

 平和が目的なら大歓迎なのだがそれを成し遂げるために遣わしているのがシバサキだというのが、何とも言葉で形容しがたい気分だ。


 以前共和国選挙で「権力は得るために何をしたかではなく、その後に何を成したかである」と考えていた。平和についても似たようなもので、平和にするために何をしたかではなく、平和になった後に何を成したかが大事である、ともいえるのだ。だが、気持ち的な物は……。何とも複雑だ。

 これでにわかに芽生えた競争意識のせいでまた道を見失ってしまうのではないだろうか。平和にするのが目的ではなくなりどちらが先にしたかと言うほうに意識がゆがんでしまうのではないだろうか。だがそんな心配をすると……おえぇ、混乱して吐き気がする。


「ダイジョブよ」


 女神は悩み迷い始めた俺の姿に気付いたのか、背中をパンと叩いた。とにかく目の前のことはしっかりやれということか。おっとっと、と前につんのめると、そこで目が覚めた。窓の外では鳥がさえずり、ノルデンヴィズは気持ちのいい朝を迎えていた。



 それから何事もなくあっという間に六月になり、俺を除く勇者たちはみんな能力インポとなる日を迎えた。


 少し不安になったが、俺については少なくともよく使っていた能力の中でなくなったものはない様子だ。そしてヤシマは、言語能力ありがとな! とこの間渡したマジックアイテムを使ってわざわざノルデンヴィズまでお礼に来た。言語能力が自然に身についた能力だということは黙っておこう。


 ブルンベイクの遅い春も終わりそうだ。アニエスの淹れてくれたコーヒーをすすりながら窓の外を見ると、木の棒を持った子どもたちがはしゃぎながら通りをかけていく。おっと、一人転んだ。


 さてはて、みんなどうなったことやら。

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