このクズ勇者どもに祝福を! 第三話
「おい、ヤシマ。お前他の勇者になんか言ったか?」
ヤシマが応答するや否や俺は本題を投げつけた。
「いっ! すまん! 実は能力の件、酔った勢いで言っちまった……」
やはりコイツが漏らしていたか。軽く舌打ちをしたのをキューディラは拾ってしまったようだ。
「たった今襲われたんだが?」と言うとキューディラ越しに慌てふためいてがさつく音がした。
「うわわわ! マジか! すまん!」
「ふざけんなよ!アニエス……連れまで危ない目に遭ったんだぞ!?」
「すまん! マジですまん!」
姿は見えないが謝る様に頭を下げているのだろう。衣擦れの音がする。
「これからどうすんだよ!? 俺は40人近い勇者を相手にしなきゃいけないのか!?」
「ぐぐぐ……いや、マジで申し訳ない。勇者たちは噂好きだからもうみんな知ってるかもな」
参ったな。畜生め。しかし、それについて俺がヤシマに明確に口止めしなかったのは事実だ。これ以上は責められないのだ。むむむと思わず黙ってしまった。
するとヤシマはキューディラ越しにあー……と声を上げた。そのまましばらく何かを悩んでいたのか呻り続けた後「なぁ、今更言えたことじゃないが、勇者ってみんながみんなそんなんじゃないと思うんだよなぁ」と言ってきた。
「それで、提案なんだが一人一人面接してみたらどうだ?」
「うっっわ、めんどくせ!」
思わずボロリと本音が口から飛び出してしまった。間髪入れずに出てしまったそれに俺自身驚き、キューディラ越しのヤシマも驚いているのか物音一つ立てない。
躊躇のない即断には俺もわずかながら申し訳なさを感じた。だが40数人と一人一人面接をしろと言うのか。御社が! 御社が! 貴社が! 貴社が! と言いまくる前向きな学生ならまだしも、これまでいい加減なことをし続けていた勇者が相手だなどと考えるだけで。
面倒くさい以外の感想がない!
「ま、まぁ、そういうなよ……。言語能力だけでも残すのがおれだけってのもまずいだろ?それにおれも手伝うからさ」と引きつった声がした。
「ヤシマ、あんたもまだ確定してるわけじゃないぞ?」
自分も責められるのではないだろうかと言うことに対する保険でもかける気か。俺は少し嫌味っぽく言った。するとヤシマは、うっ、と喉を鳴らした。
「と、とにかくやろうぜ。そのほうがおれも残してもらえる可能性あがりそうだし」
俺とヤシマの話を聞いていたアニエスが横からのぞき込むと、「イズミさん、きっと父のような立派な方もいらっしゃると思いますよ」と肩を叩いて頷いた。
彼女はやる気のようだ。背中を押すように微笑んでいる。たった今その勇者崩れに襲われかけたとは思えない心の寛大さだ。
しかし、アニエスの父のアルフレッド。あれは別だ。お世話になった手前、贔屓目に見ているところもあるのは否めないが、これまで遭ってきた勇者どもに比べてまだまともである。(40年何やってたの?と娘の前では言えないが)
確かに、俺はこれまでの経緯から勇者たちは全員クズであるという先入観を自分の中で作りあげてしまっていた。それのせいで勇者全員を見下している自分がいることも事実だ。自分以外は何もしていないような、自分だけが努力しているような考え方をしているのも否めない。様々な悪行や怠惰を棚に上げてもいるのだ。
それにこれまで知り合ってきた勇者は、シバサキ、ヤシマ、アルフレッド、さっきのクズA、B、それから自分というたったの6人だけなのだ。あと42人いる集団の特性をこの6人だけを参考にして決めてしまうのはどう考えても理論的ではない。
本当にすべての勇者は全員クズなのだろうか?
実は何もかもが理想的で素晴らしい勇者がいるが、何かしらの理由でできなかったとしたら? その讃えられるべき人を俺は闇に葬ってしまうかもしれない。
これからの和平交渉の最中でますます混乱が起きるのは予想される。だからそういった英雄的人材は必ず必要だ。
俺はアニエスとヤシマを交互に見つめた。仕方なく同意したようなふりをして頷いた。
さっそく翌日から勇者たちにチート能力適性診断・残留面接会の実施連絡を入れることにしたのだ。
俺たちは全部で48人いる勇者からヤシマ、俺を除いた46人に連絡を取った。女神がいないタイミングでひさびさに助手のあーちゃんを呼び出し、いつもの連絡用フクロウをこっそり出してもらったのだ。
アルフレッドは「自然の摂理だ。いらん」と言い、シバサキは音信不通 (そもそもしてない)。残りの44人のうち、能力を残してほしいと言ってきた35人と面接をすることになった。7人は、食用サンバイタイカイコウオオソコエビの養殖だとか、月の満ち欠けと霧星帯の波動に反応して振動する健康水晶の販売だとか、その他の事業で成功しているらしくいらないそうだ。
色々とツッコミたいところだが、すれば負けな気がする。それに指折り数えると二人足りない。そういえば襲撃をかけてきた二人はカウントしていなかった。