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かえりみち

 翌日はグラントルアから朝一で戻り捜査に加わった。捜査は続くらしいが、俺たちの役目はその日で最後だそうだ。昼前には終わり、俺たちはサント・プラントンへ帰ることになった。


 ラド・デル・マルからサント・プラントンまでは馬車を使い、何か所かの街を経由する必要があるので少し長旅になりそうだ。のんびりしている暇はどちらかと言えばないのだが、移動魔法の記録を作るために馬車で帰ることにしたのだ。


 朝から続いていた晴れた天気は心地よいが、日向にいると汗ばむような陽気だ。出発の準備の最中に手を額に当てて空を見上げると、アホウドリたちがやがて大きくなる雲を背景に空を旋回している。そのまぶしさに目を細めた。珍しく丘の上を旋回するアホウドリたちはどうやら俺たちの見送りをしてくれているようだ。


 気のせいだろうか。遠くで何かの回転する音が聞こえて辺りを見回した。赤白の吹き流しは少し重たそうにはためいている。昔どこかで聴いたことのある音だったが、気のせいのようだ。


「ホラホラ、あんたも手伝いなさいよ。生きめやもって黄昏てんじゃないわよー。あんたの荷物も多いんだから」


 双子をオージーに預けたアンネリが俺を呼んでいる。俺は再び出発の準備を始めた。

二人は誘拐事件の衝撃からは立ち直り、ストスリアにいた頃に戻っていた。落ち着いたようなので、気になっていたことを尋ねることにした。


「そういえば、俺がシーヴか槍かって聞かれたとき、なんで二人は何も言わなかったんだ?」


 カトウに頼まれていた食材を馬車に運びながら、自然体を装い二人に尋ねた。するとアンネリは俺の顔を見て眉を上げた後、再び荷物を運び始めた。


「あの時、あんたがシーヴを選ぶことくらいわかってたわよ」


 ガチャンガチャンと金属音がするやたらと縦に長い木箱を荷台に載せると、中に入れてある梱包材だろうか、木くずがぽろぽろと箱から落ちた。そしてアンネリは手をパンパンっとはたいて埃と木くずを落した。


 俺はモンタンに、ブルゼイ・ストリカザかシーヴを選べと言われたとき、迷うことなくシーヴを要求した。親である二人が目の前にいるからではなく、俺自身がそれを望んだのだ。

 さらに言い訳をすれば、シーヴが雨ざらしにされ寒さに体力を奪われてしまうわけにはいかず、悩んでいる暇はなかったのだ。


 しかし、そのせいでブルゼイ・ストリカザが奪われてしまった。その槍は世界を一変させるようなスヴェンニーの秘技が込められており、兵器転用されるのは間違いないのだ。あの雨の中を思い出すと今でも悔しさがこみあげてくる。下を向いて下唇を噛んでしまった。


「でも槍は奪われた。これから戦争が起きるかもしれない」


「あー……それなんだが、イズミ君、実はな」


 双子の子守りをするオージーがつむじのあたりをぽりぽりと掻きながら近づいてきた。


「実は打つ手があるかもしれないんだ。多分彼らはあの槍を解析して使おうとしている」


 何か言いづらそうにそわそわとし始めた。目が泳いでいる。


「あのー、ちょっと言いづらいんだが……」


 荷台の奥へと荷物を移動させていたアンネリが「槍の一か所だけちょっと削ってたのよ。こっち来る前にね」とひょいっと顔を出してそう言ったのだ。


「削るって? できたの? カチカチなんじゃ?」


 聞き返すとオージーが笑った。


「どうやら、ボクたちスヴェンニーだと自在に扱うことができるみたいなんだ」


「そうなの。で、あたしが杖を高温にしてみたら簡単にできたわ。ジューって」


「さすがに全体を変形させるわけにはいかないからちょっとだけだがな。ほんの少しだけ」


 オージーがぐっと指を立ててウィンクした。ということはサンプルの一部が二人の手の中にあるということだ。あまりやりたくない手段だが、こちらも解析して抑止力にしてしまえばいいのだ。だが何もないよりよっぽどいい。


「マジか! さすがだな! 元悪童ペア!」


「人聞き悪いな。レトロスタナムでもあれを拾って、あ、いや、ははは。不名誉なあだ名だが、確かにそうとしか言えないな」とオージーはすまなそうに笑った。


 展望が見えたがあれは借り物だ。現在の持ち主はアルフレッドである。人の物なので大事に扱わなければいけないのはもちろんだが、二人はそれも十分理解しているだろう。お気に入りの武器を傷つけるのはアルフレッドに申し訳ないが、今後のためだ。きちんと説明すれば彼も理解してくれるはずだ。それに先っちょをちょっとだけ削ったくらいだろう。


「そういやどれくらい削ったの?」と尋ねるとオージーはギョッとした。


 そして「……これくらい」と目を逸らしながら人差し指を二本立てた。一センチくらいか。これは結構削ったな。と思い、へー、と言いながら彼の指の間を見た。


 だが俺は光景に目を疑い、二度見してしまった。立てられた二本の人差し指の間は15センチほどあったのだ! それを世間は『削った』とは言わない! 『折った』というのだ!

 頭の上から血の気が引き身震いまで起きるような感じがした。


「おまぁっ! おまえらーーー! 何やってんだーーー! あれ一応アルフレッドに返すんだぞ!?」


「あ、いや、すまん……。ちょっとじゃ足りないかと思って」


「何言ってんのよ。ちゃんとグリューネバルトのジジイに許可貰ったじゃない。『かまわん。これは私の親友二人の持ち物だ』って」


「どこのいじめっ子の理論だ! あんクソじじい!」


 アルフレッドにどう申し開きをすればいいのだ。誤魔化すか。40年ぶりに持ったから感覚違うんじゃないですか? きっと成長したんですよ!とか言えばいいのか。いや彼は相当な手練れだ。持った瞬間短いと分かるだろう。


 無理だ。返ってきたときは本当のことをすべて話して、あとはグリューネバルトに説明させよう。


 頭を抱えていると「みなさーん、そろそろ出ますよー」とティルナが御者台から顔を出して笑っている。

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