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アホウドリの家族たち 最終話

 カリストは肩を下げ、目元に掌を押し付けるとふぅと大きくため息をした。厄介ごとを持ち込まれた先ほどの嫌悪にまみれた頬杖ではなくなり、少し安堵したように顔色をよくしている。


「君はどの家も潰さずに我々をまとめようというのかね?」


 そしてやや微笑みを浮かべながら尋ねてきた。やはり事なかれ主義の彼には都合のいい形になったのだろう。五家族の結束と言う、前向きなもので問題を収拾させられたのだ。


「そうです。すべてこれまで通り。いや、これまで以上にみんな仲良し!」


 少し大げさにするために、両手を天に掲げて笑みを浮かべた。そして、


「連盟政府のために。共和国のために。いいえ、同じ大地に生きる、家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)


 と宣言するとまたしても会議室には沈黙が訪れた。だがルカスもヘマも先ほどよりも顔色がいい。



「よかろう」


 そこへ黙り続けていたエスパシオ大頭目が口を開いた。


「私はそれに賛成する」


 一同の空気が抜けるような感覚が部屋を包みこんだ。天を見上げたり、目を閉じて頷いたりしている。五家族崩壊の危機が去り安心したのだろう。

 だが、エスパシオは一人違い、顎を上げると俺を見下ろすようになった。


「確かに賛同しよう。五家族の悪事を暴き、それを正したうえで家族たちの結束を訴えたのは確かに素晴らしい。だが、君が共和国に行ったということを私は聞いてしまった以上、共和国のスパイである可能性を無視してはいけなくなった。私たちは連盟政府に属しながらも自治を行使しているが、共和国に敵対する連盟政府の一部であることはまだ変わりがない。それについて君はどう説明を付ける?」


 この期に及んでエスパシオは俺を牽制しようというのか。あくまで自分たちが有利であるという状況を崩さないようにするためだろう。流石である、若き盟主。だが、さてはてあなたがそれを言う資格はあるのか。このまま何も言わずに、エスパシオにクビを掴まれてなるものか。


 結局、全家族を責めることになるのか。俺は鼻から息を吸い込んだ。


共和(とある)国から―――」


 言葉を選ぶようにわずかであるが躊躇った。


「海の向こうの国の裕福な武器商人の家から、年を越す前あたりにカルデロン・デ・コメルティオへ個人が所有するには多すぎるほどの外貨、エケル通貨が送られたのはご存じですね。コーヒー、リン鉱石、魔石の密輸をしていたブエナフエンテ家ではなく。

 さらにそれを普段は競合し合うはずのトバイアス・ザカライア商会に所属するある商人へ送るようにと依頼されていたことも。誰かがどこかでそのエケル通貨をルード通貨に換金してくれたおかげで、最後に手元に届いた通貨はルード通貨でした。なぜそれを知っているのか、それはその宛先を見ればわかると思います」


 和んでいたはずの他の頭目たちが驚いたようにエスパシオ大頭目の方を一斉に向いた。直接的には言わないが、カルデロン家と共和国、さらに商売敵であるはずのトバイアス・ザカライア商会とのつながりをにおわせた。

 それにエスパシオは表情に出さないが、少し驚いたように眼を大きくしている。


「共和国から和平交渉の打診が来たと連盟政府中枢から聞いたとき、いささか話が急で怪しいと思っていた。君が血を流さずにエルフたちとの友好をもたらそうとしている立役者と言うわけか。ははははは」と笑い出した。


「カリスト頭目、彼に開翼信天翁(かいよくしんてんのう)十二剣(じゅうにけん)付勲章を付けてあげなさい」


 エスパシオの発言を聞いていたカリストは大きく頷くと「イズミ殿、私の傍へきたまえ」と俺を呼び寄せた。そしてテーブルの隅っこに無下に置きっぱなしにしてあった勲章を使用人に持ってこさせた。


「どうやら、勲章は無駄うちではなかったようだな」と席から立ち上がったので、俺は跪いた。すると胸ポケットのあたりに勲章を付けた。


 手に取った時よりもそれは重たく、光を強く照り返しその存在を大きく感じた。


「式典を挙げられないのは実に残念だ。十二剣の信天翁を持つ者に誓い、必ずや信天翁五大家族は一つになろう」と微笑んだ。


 それからエスパシオが立ち上がると、習うように全員が立ち上がった。


「“家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)”!」


 掛け声とともに五家族たちの会議は解散となった。




 頭目たちが順番に1人、また1人と部屋を出て行くのを見守った。


 密輸自体はどの家もこっそりと行っていたのだろう。以前の報酬がカルデロン経由だったことも考えると、それ以外は考えられないのだ。

 しかし、兵器になりうるものは最小限にしていたのだろう。いくら和平に前向き、親エルフであっても人間なのだ。特に魔石はその最たるものだ。火薬がなく繰り返せる発火、電源を必要としない電流、大きくなるコンプレッサーを要しない冷凍技術、距離を無視した信号のやり取り、もしくは移動……。


 最後に部屋に残った俺は長いイスペイネ滞在の日々を思い返した。


 残念なことに、スヴェンニーの秘密は、カミロが殺害されたこととブルゼイ・ストリカザを奪われてしまったことにより秘密のままとなった。だが、モンタンによりどこかへ持ち去られた槍が解析され、その秘密が明らかにされてしまうのは時間の問題だ。そして兵器転用されてしまうだろう。


 アホウドリたちのお家騒動も収まった。だが、まだこれで終わりではない!


 レトロスタナムの連中の魔法射出式銃を使用していたこととカミロがぶっ放してきた魔力雷管式銃のことだ。共和国の関与はゆるぎないものなのだ。


 次はどこへ向かえばいいか。悩むまでもない。


 俺はガバッと立ち上がり、すぐさまヤシマに連絡を入れた。

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